《MUMEI》

「あの…お風呂、いただきました」
「随分早ぇんだな。ちゃんと洗ったのか」
「一応洗いましたが…」
「まぁいい。さっき保護者には連絡しといたから安心しろ」

安心……か。
外泊なんてしたら、きっと怒鳴られるだけじゃ済まされないだろうな。
……嫌だなぁ
ようやく前のあざが消えてきたのに…
…顔にまでされたらどうしよう……



…………………ビシッ!!
「いっっ!?」
私が考えこんでいると、額に小さな痛みが走った。
どうやら白戸さんにデコピンされたらしい。

「なっ……!なにするんですか!」
「お仕置きだ。辛気くせぇ顔した」

「だからってなんでデコピ…」
私が反論しかけると、白戸さんの大きな手が私の頭を少々乱暴に撫でた。

洗い立ての髪が乱れてしまうのに、私は全く気にせず、ただ彼に触れられている現状に少しの幸福感を抱いていた。

そして私は無意識に頬が緩んだ。

「そーやって笑っときゃいいんだよお前は」

「よしよし」と白戸さんは子供を慈しむように、私の頭を乱暴かつ優しく撫で続けた。

よく考えれば、生まれて一度も頭を撫でられたことなんてなかったと気付くと、涙腺まで緩みそうになった。

そして白戸さんは撫でていた手を止めた。

「また来たい時に来い」

…そう言うと、私の頭を軽くぽんと叩いて自室へと戻っていった。



…ぽつんと、目からなにかが零れた。

「………………………ッ…」
一滴零れたと思うと、それはどんどん溢れてきた。

今まで溜めていたもの全てが、まなこから溢れ出ていく。


今日出逢ったばかりの人に、私がこんなに心を許すなんて思ってもみなかった。

床に雫がぽたぽたとおちていく。

止まらない。
止まない

その雫は、窓の外で降り続く雨と比例していた。

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