《MUMEI》

……眩しい。
目蓋はしっかりと閉じているのに、視界が明るい。
…朝が来た。
それを理解すると、一気に意気消沈した。

…父が起きる前に起きないと。

いつもの習慣を思い出し飛び起きると、ここは自室ではないことに気付く。

「……そういやそうだ」

深い眠りから覚め、まだ寝ぼけて正常に回っていない頭でも、すぐに今までの成り行きを思い出せた。
あと数時間は父の怒鳴り声を聞かなくていいとわかり愁眉を開くと、再びベッドに身を沈めた。

カーテンの隙間からは柔らかい日差しが差し込んでいて、昨日の大雨は止んだのだと理解すると、なんだか少し憂鬱になる。

私にとって昨夜の雨音は何故かとても心地良かった。
それは白戸さんのお陰なのだろうか。

頭に彼の手のぬくもりを感じながら聞いた雨音は、まだ15歳の私の語彙力では上手く言い表せないが、なにか心に響くものがあった。

五月蝿くて冷たい、いつもなら耳障りに思う、そんな音なのに、何故か脳裏にこびりついて離れない。

それは生まれてきて何度も聞いたはずの音、なのに生まれて一度も聞いたことのない音。

………わからない。

私にはとてもわからない。
私にはとても言い表せない。

…………でも、もう一度感じたい。


あの音を、もう一度。

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