《MUMEI》
2
「腕の関節が動きにくい?」
翌日、唐突にロイドがそんな事を言い出した
その言葉通り腕のソコに耳を当ててみれば何やら軋む様な音が
もし故障なら修理してやらなければ、と小野坂は考え始め
暫く呻きながら思案した後
「……行って、みるか」
小野坂が一人言に呟けば
ロイドは解らない様で首を傾げて見せる
「良、どこか出かけるんですか?」
「ああ、親父たちのトコ。お前も調子悪いままじゃなんか嫌だろ?」
だから行ってみようと思う、と小野坂は身支度を始める
その様を眺めながらロイドは僅かに表情を綻ばせた
自分のためにと小野坂が何かをしてくれようとしている
それが何となく嬉しく
甘えて過ぎてはいけないと思いながらもロイドはそのまま小野坂に連れられて行くことに
「なんか、だんだん音酷くなってないか?」
近く並んで歩けば段々と大きく聞こえてくるその音
一度気にしてしまえば段々と気にかかってしまい
小野坂は徐に脚を止めるとロイドの腕を取る
見てはみるが、やはり何が悪いのかがは解らなかった
「……直してやれれば、良かったんだけど」
「良?」
「……なんでも、ない」
それから目的地まではお互いに無言で
僅かに離れて歩くその微妙な距離感が何となく心地がいい
「良。どうかしたか?」
目的地に着き、小野坂は事の経緯を説明し始める
「朝から調子悪いって言うから。ちょっと見てやって」
それだけを言うと小野坂は、勝手知ったる実家といわんばかりに
ソファへと身を寛げテレビを見始めた
父親はその様に僅かな溜息を吐くと
だが何を言う事もせzす、ロイドを連れ隣の部屋へ
「……ああ。ここの関節が微妙にずれているだけだ」
「そうでしたか。良かった」
大した異常でなくて心底安堵したらしく
ロイドが肩を撫で下ろすと、父親はその部分の整備を始める
「……あれは、どんな様子だ?」
手は作業に動かしながら父親が徐にそんな事を聞いてくる
唐突過ぎるソレにロイドは瞬間返事をすることが遅れ
そして何とか答えて返す
「良の事、ですか?特に変わった事はありませんが」
此処でロイドは一度言葉を区切ると
今で寛ぐ小野坂の方を見やりながら
「もう少し、俺に慣れてくれればとは思ってます」
大分慣れてくれたとはロイドも実感は出来ている
だがまだ、互いの在り方が何となくぎこちないような気がして
それがロイドにしてみればもどかしく感じられるのだ
どうすればいいのか、何をすればいいのか
考えてはみるが、良案などすぐには出るはずもない
「……ショック療法というのも、手かもしれないな」
「ショック療法、ですか?一体、何を……」
その言葉の真意が解らず、探ろうと問う事をロイドはしてみるが
父親は僅かに笑みをうかべて見せ、ロイドに耳を貸すよう手招く
そしてその耳元へ父親が何かを言って向ければ
「――!?」
その言葉は思いもよらぬソレだったのか
ロイドは瞬間眼を見開き、そして絶句していた
「……それが良のためになるとは、俺には思えません」
「……そうかもしれない。だが、あの子には(切っ掛け)が必要なんだ。でなければあの子はずっと、このままだ」
「ですが――!」
「頼む。こんな事を頼めるのはお前しかいないんだ」
両の手を合わせてまで懇願してくる父親
ロイドはその様を困惑気な顔で暫く眺め
そして、重くゆっくりと口を開いた
「……それは、(命令)ですか?マスター」
「え?」
「俺はあなたが作った機械です。あなたが一言(命令)だと言えば、俺はソレに逆らえない」
正面から父親を見据えれば
父親はバツが悪そうに顔を伏せ、だがゆっくりと頷く
「……了解しました。今日にでも、実行します」
「すまない」
「謝る必要などありませんよ、マスター。俺はそのための、機械です」
ロイドは父親へと作り過ぎた笑みを向けると
深く一礼し、部屋を後に
「もういいのか?」
ロイドの気配に見ていたテレビから向き直る小野坂
ロイドは変わらない笑みを浮かべ頷きながら帰りましょうと小野坂の手を取った
「なんか、あったか?」
「何故ですか?」
問うてみた理由を逆に笑みで問われ
小野坂はロイドの頬へと手を触れさせてやりながら
「……何か、顔引き攣ってるみたいにみえたから」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫