《MUMEI》 想うあれから1ヶ月。 私はこの1ヶ月間、上手に過ごした。 家では、進んで家事や妹の面倒を見ていたため母親には感謝され、言われる前に酒を買ってきて父親に怒鳴られることもなかった。 学校では受験勉強が疎かにならないように、授業中は もちろん、休み時間も勉強に費やした。 いつもなら長く感じるはずの1ヶ月間が、あまり憂鬱ではなかった。 今日から6月。 梅雨。 私にとっては少し嬉しい季節だ。 だが、まだあれから私は一度もあの病院へ行っていない。 病院前の公園までは足を運んだものの、つい怖じ気づいて結局院内に入ることはできなかった。 そんなことを考えていると、いつの間にか授業終了のチャイムがなった。 「はぁ……」 「おいお前、幸せ逃げんぞ〜」 私が机で溜め息を吐くと、背後から声がした。 クラスメートの梶直哉だ。 最近やたらとちょっかいをかけてくる男。 …正直鬱陶しい。 この男はクラスでも人気な存在で、俗に言う“リア充”という人種なのだろう。 そんな男が何故私に構ってくるのか、よくわからない。 「お前相変わらず孤立してんのかよ、寂しい奴だなおい」 「………」 …死ぬほどウザイ。 こいつは嫌味で言っているのか、それともただKYなだけなのか。 そもそも私は子供が嫌いだ。 15にもなってこの精神年齢の低さは異常だろう。 地雷を踏まれて相当機嫌を損ねた私は椅子から立ち上がり、教室を出た。 「おいどこ行くんだよ」 呼び止める声を無視して廊下に出た。 苛つきながら歩いていると、水の音が聞こえてきた。 どうやら雨が降り始めたらしい。 その音を聞くとまた白戸さんが頭に浮かんだ。 ……会いたい。 無性にあの低く優しい声が聞きたい。 もう一度頭を撫でてほしい。 苦しい。 胸が締め付けられる。 …私は随分と、彼に依存してしまったようだ。 とうとうこの気持ちを押さえられなくなり、私は放課後病院に行くことを決意した。 早く会いたい。 私はもうそのことしか頭になかった。 前へ |次へ |
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