《MUMEI》

その美しくも恐ろしい光景を、前の世代の任務を引き継ぎ、すでに何百年もの間飽く事も知らず、見つめ続ける者がいた。
もしもそれが人間であれば、周囲に広がる無限の空間と、果ても無い深い漆黒がもたらす圧倒的な孤独感に、とうの昔に発狂していたかも知れない。
だが『ウォッチャー』と呼ばれるその者は、人間では無かった。
しかし、単なる機械でもない。
その者には機械には持ちようも無い、
「意志」らしきものがあったからだ。
その「意志」とは、自ら生まれたと言うより、その者を作りだした大いなる存在から、与えられたものに過ぎなかったが。
それでも、その目的に対する「意志」こそが、「ウォッチャー」を単なる作り物の機械と分かつ存在としての、ひとつの証明なのだと言えた。
「ウォッチャー」が大いなる存在から与えられた「意志」・・・・、それは、
呼び名のごとく、この恒星系の第三惑星に育つ知的生命体の成長を、注意深く
観察する事にあった。
時にその成長に助言らしきものを与えながら。
助言とは言うものの、それは最低限に限られた。
吉と出ようが凶と出ようが、いつかその知的生命体が宇宙に文明圏を広げるまでは、一切の干渉が許されない、と言うのが、大いなる存在が「ウォッチャー」に課した掟(おきて)であったからだ。

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