《MUMEI》

「あの人は、始まりの13。一番最初に世界に愛されたお人」
唐突に聞こえてきた声
振り向いてみればソコに立って居た見知らぬ老婆
まるであの男の事を知って居る様なその口振りに
坂下はついその老婆を睨んでやる
「……あの方と同じ、怖い目をしなさる」
「テメエと下らん問答する気は無い。ばあさん、知ってること全部吐け」
刀を抜き、その喉元へと突き付けてやれば
だが老婆は動揺する事もなく、唯坂下を見据える
「あの方は、救われたいのですよ。この世界から」
聞いたことのある様な言葉
だが若干違って聞こえるニュアンス
救いたい、救われたい。それは一体何を、そして何から
相も変わらず何一つ解らないままだ
自分が今欲しているのはそんな曖昧な事実ではない
「……あなた様も、見たのでしょう?あの歪なモノを」
それが表情に出ていたらしく、老婆の声が続く
歪なもの、それは以前見た(世界)の事だろうと
微かに坂下の表情がこわばった
「……あれには、慈悲などない。あの方とてそれは解っている筈です」
それでも(世界)とともにあり続けるには何か理由あっての事
その理由が解りさえすれば、事はうまい具合に収拾に向かうのだろうか
そんな事を坂下は考え始める
「無駄ですよ。どう足掻いた処で何も変わらない」
「それは、あいつを見捨てるってことか?」
低く静かに問うてやれば、だが老婆は答える事はしない
諦め二も見て取れる表情で笑みを浮かべ
坂下へと向けて見せると、そのままその場を後に
救われたいと言いながらも無理だと吐き捨てた老婆
その真意は一体どこにあるのか
分かる筈もなく、坂下は暫く立ち尽くすしか出来ない
「やっぱり、もう駄目なの?」
不意に服の裾が引かれたかと思えば、透子の曇った顔
また目尻に涙を浮かべる透子に
坂下は何を言ってやる事もせず、袖で拭ってやる
「……取り敢えずは、他の13、探しに行くか」
全てのその候補をあたっていけば何か解るかもしれない、と
坂下は透子へと手を差し出す
その手を暫く見やっていた透子だったが
頷いて、手を取っていた
互いに行く当てがある訳ではなかった
だが、ここに立ち尽くしていても仕方がない、と
坂下達は取り敢えず歩く事を始めたのだった……

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