《MUMEI》

深々頭を下げれば
花宮は行き成りのソレに驚いた様な表情で
慌てて岡本の頭を上げてやりながら
「あ、あれ位全然平気よ。本当、千秋ちゃんが気にする事じゃないから」
だから暗い顔をするなと花宮
岡本からコロッケを受け取ると満面の笑みを浮かべ
「これ、もしかして片平さんのもあったり?」
一人分にしては多いその量に尋ねてくる花宮へ
岡本は僅かに頷いて返す
「あんなのに上げるなんて勿体ない。折角の千秋ちゃんの手作りなのに!」
すっかり片平をあんなの呼ばわりし
花宮はどこからか箸を持ってくると、両の手を合わせ食べ始めていた
肉じゃがで満腹なのではなかったのか
そんな突っ込みをついしたくなる
「……堪えろ、那智。そんな事日には藪蛇になる」
相手するだけ無駄だと、村山は少し笑みを浮かべ
相手にするだけ無駄だと村山は苦笑を浮かべ
前野は何とか言葉を飲み込む
結局、そのコロッケは花宮が皆完食してしまっていた
「……美味しかった?」
出来栄えが気になるのか、窺う様に花宮を見上げる岡本
その仕草は何とも可愛らしく、花宮を魅了する
「んもう!何この子、超可愛い!!」
行き成り叫んだかと思えば岡本を抱き寄せる
花宮の無駄にふくよかな胸元に顔を押し付けられ息苦しいのか
岡本が珍しく慌て、もがくことをしている
「……花宮。千秋が窒息する。離せ」
「え!?あ、ごめん!千秋ちゃん、大丈夫!?」
慌てて岡本を話す花宮
漸くの呼吸に肩を撫で下ろしながら、岡本は花宮へと大丈夫を返していた
「……じゃ、もう行く。今日は、本当にありがと」
小さく頭を下げると、岡本は小走りにその場を後に
かろうじて一つ残ったコロッケを一応は片平へと届けると
ロビーのソファへと腰を降ろし一息ついていた
「お疲れ、千秋。色々疲れたろ?」
その労を労い、村山が茶を淹れて差し出す
ありがとと一言でその茶をすする岡本
ほっと一息漸く付けば、その身体がゆらゆらと船を漕ぎ始めた
「千秋?」
眠たいのかと、倒れそうになる身体を支えてやり顔を覗き込んでやれば
返事を聞くよりも解りやすい眠たげな表情
閉じかけの目で見上げて来たかと思えば二人の腕を取り
抱える様な形でそのまま寝入っていた
「……器用な寝方するね」
座ったまま船を漕ぐ様につい笑ってしまえば
前野も同じに肩を揺らす
「……寝顔は、ガキの頃のまんまだな」
「背は随分と大きくなったけどな」
互いにまるで娘を見ている様な物言い
道理で自分達も年を老う、と改めて実感してしまいながら
岡本が眼を覚ますまで、そのままで居たのだった……

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