《MUMEI》

 その日もアパート内は朝から賑やかだった
相も変わらない騒音、轟音、叫ぶ声
あれだけ手を加えた割に何一つ改善される事のないまま、日々は淡々と流れていく
「……でも、きっとこれが平和」
登校前、このアパートによるのが日課の岡本
両親のいざこざもすっかり解決し
普段通りに傍観を決め込み前野お手製のカフェオレを一口啜る
「……おいしい。なっちゃん、もう一杯」
「はいはい。どーぞ」
新たに注がれたソレを飲みほし、まったり寛ぐ岡本の傍ら
他の連中は何故こうも喧しいのだろうかと苛立ちに眉間にしわが寄る
「那智ー。そんな顔ばっかりしてたら人生損するぞ。もっと気楽に、な」
「俺はお前のそのポジティブさが偶に羨ましいわ」
皮肉ではなくそう言ってやれば村山は満面の笑みを浮かべ
態々胸を張って見せる
「どんどん羨ましがれ。そして目指せ俺、だ!」
「……テメェなんか目指したくねェよ」
御免被る、と吐き捨てれば
ソレに同意するかのように、傍らの岡本も小さく頷いていた
「……キイ君が二人。ちょっと、困る、かも」
「何で!?千秋、それ酷くない!?」
「……にぎやかさが、二倍。だから」
余りな千秋のソレに村山は肩を落とす
あからさまに気落ちしてしまった村山へ
岡本はその近くまで歩み寄り、座り込んでしまった、村山の頭を撫で始めていた
「……でも、それがキイ君のいい処。ね」
可愛らしい笑顔にそう言われてしまえば後は何も言えなくなる
それが自分の長所ななのだと、村山は取り敢えず納得する事に
「じゃ、私もう学校行く」
食事もひと段落つき、岡本が顔を上げる
行ってきます、と手を振る岡本
手を振り返し見送った後、その騒動は更に酷くなる
「あーもう、うるせェ!!」
毎日の事とはいえ、ヒトの我慢には限界がある
前野は苛立ちも露わに顔を顰め、ソレを抑え込む様に髪を掻き乱すとそのまま外へ
「那智?何処行き?」
途中、声を掛けてきた村山へ
一言煙草を階にコンビニにと返すと
「あ、俺も行く。ちょっと出たい」
村山もその後に続く
結局二人連れ立って近所のコンビニへと向かい
煙草、ライター、缶コーヒーを購入し早々に帰路に着いた
途中、友人らと登校中の岡本を姿を見つけ
岡本pの方も二人に気付き、互いに手を振りあう
「今日も一日、頑張ってね!なっちゃん、キイ君!」
珍しく大声を出してのソレに
前野と村山は自然と笑みを浮かべ手を上げて返していた
「……今日も一日、頑張りますか。那智」
「そう、だな」
可愛らしい応援も戴いた事だし、と互いに肩を揺らしながら
二人は僅かばかり足取りも軽く、改めて帰路を歩き始めたのだった……

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