《MUMEI》

 「次は何処に行く気だ?」
取り敢えずは歩くことを始めた坂下と透子
だが目的地が今一はっきりとせず、坂下はつい問うてみる
透子はゆるり振り返りながら
「……始めるために、終わらせに行くの」
続けられた言葉に、坂下は即座には理解出来ずにいたが
すぐに、その言葉が意味する処をしる
透子は、(世界)を壊そうとしているのだ、と
「……そんな事して、平気なのか?」
つい聞き返してしまえば、透子は分からないを返してくる
「……でも、今よりもきっとマシな筈だから」
それは一体どういう意味か
坂下が表情で問うてやれば
「誰かの犠牲を強いる世界。もしその世界が壊れるなら、今よりもきっとマシな筈だから」
珍しく薄い笑みを浮かべて見せ、歩くことをまた始めた
何かを決意したようなその顔
坂下はそれ以上何を聞くこともせず、透子の後に続く
黙々と歩き続けて、その先
まるで廃墟のような高層ビルがあった
「何だ?ここ」
高すぎるソコに上を見上げる坂下
透子はだが正面を見据えたまま
「……ここは、13達が終わりを迎える場所」
声も静かに呟いた
最後
僅かに表情を強張らせる坂下を横目に透子は中へと進んでいく
付いて入って見たソコには、大量の人の死体
まるでモノの様に無造作にソコに積み上げられている
「・……13に選ばれた人間はまずここに収容される。そしてその時まで、ここで暮らす事になる」
現状の説明始めた透子
既に息絶えてしまっているその人の山を眺める横顔に表情は無い
唯々、淡々としたものだった
「最初は、楽園なの。何の不自由のない生活を約束されて。でも」
そんなものは所詮、長く続く筈もない
閉鎖された空間、そして日々植えつけられていく生きる事への絶望
ソレに耐え得る人間などそうそう居るものではない
「……こっち、来て」
服の裾が引かれ透子に連れていかれた先の見えた扉
ガラス張りのその扉は鍵がかかっているようで開くことはなく
その中にはまだ生きている人間が何人もいた
「……あれは、13になり損ねた人間たち」
「なり損ねた?」
「そう。(世界)の餌として適合しなかった。だから、捨てられるの」
「捨てられるって……」
どういう事なのか
問うよりも先に、それは坂下の目の前で現実のソレとなった
突然にガラスに飛び散る血液
一体何が起こったのかと中の様子をうかがってみれば
ソコに居た全員が、その四肢を無残にも切断されていた
「……っ!?」
「……分かった?」
13として認められなかった候補たちはヒトとしてではなく、唯のごみとして廃棄される
飛び散る血、嫌な水音を立て硝子に当る肉片
眼を背けてしまいたくなりそうな惨状だった
「……助けて、あげて」
切にソレを訴えながら、透子の手が坂下の頬へと伸びる
細い指先が、触れた瞬間
坂下の左目の下に、何か痣の様なそれがぼんやり現れ始めた
No.0
その痣を見、透子の目が僅かに見開く
「……あなたは、13ではなかった。0、だった」
驚いたような表情は僅か一瞬
透子は珍しく穏やかに笑みを浮かべながら
「……新しい、私の、(世界)。あなただった」
縋る様に、坂下へと身を凭れさせる
透子の言っていることが 、今一解らない
自分は13ではない意、それは以前に聞いた言葉
(世界)だった、それは今になって初めて聞いた
どういう事なのか、つい怪訝な表情を浮かべてしまえば
「……お願い。あの人を、13達を、解放してあげて」
求める様に透子の手が坂下の頬へと伸びる
触れて、引き寄せられたかと思えば
唇が重ねられた
「……このままじゃあの人はずっと世界に捕らわれたまま。それじゃ、どうやっても、救われない」
「だから、俺に身代りになれって?」
随分と勝手な物言い
ソレをつい責める様な眼で見てやれば
透子は何を弁解するでもなく、唯微笑むだけ
つまりは、そういう事なのだ
「……只でとは言わない。必ず何か見返りはあるから」
「……例えば?」
自分が身代る事で何の得があるのか
問うてみるが、やはり透子は何を言う事もない
互いに何を得るわけでもない問答
いい加減、飽きkてしまうのが早いのも仕方がない事だった
「……もういい。見返りは身代りになってから、俺が決める」
ソレでいいだろうと、一方的に話を打ち切り身を翻し

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