《MUMEI》
歌のワンフレーズを入れて。
★暗い話注意★


白〜イ花摘ンデ〜
アノ人ニ〜ア.ゲ.ヨ…

アノ人ノ胸ニ〜
コノ花刺シテ〜ア.ゲ.ヨ…


花屋で白い薔薇の花束を買い、足取り軽く目的地へ向かう。

『ふふふっ』

自然と口元が緩む。
もう直ぐ…もう直ぐ…
彼の驚き慌てる顔が思い浮かぶ。あぁ、なんて言うのかな?開口一番、顔をひきつらせて「なんで来たの?」って言うかな?それとも怒る?「来るんじゃない!」とか言って掴みかかるかなぁ?


そんな事考えてたら、目的地へ到着。中世のお城を模した趣味の悪い建物。派手濃い造りのそれの門をくぐる。あちこちから聞こえるオメデトウコール。噎せかえる色とりどりの花たち。鳩が飛び交う。テープが降り注ぐ。纏う空気はピンクを帯びて甘ったるい。


ヘドが出る。糞喰らえ。


受付にて名前を記入。上着の内ポケットから紅白金糸付き封筒を出し、一礼して彼を探す。居た。やはり青ざめた顔をひきつらせて。ツカツカと歩み寄り、飛びっきり笑顔で挨拶をする。


『本日はオメデトウ』


ゴクリと息を呑む音が聞こえた。どうだい?貴方が散々弄んで無残に捨てた男に、式場に乗り込まれた心境は?頭の回転の良い貴方の事だから、ぐるぐると考えを張り巡らせているだろうね?あぁ愉快だね。傑作だ。


「き、来てくれるとは思わなかったな。」


うん、上出来。大人な対応だね。でも惜しいかな目がさ、笑ってないよね。残念。あはは…。内心ビクビクなんだろ?小心者だものね、本当は。弱きを挫く人だものね、お陰で僕の身体はアザだらけだよ。出世に釣られてホイホイ結婚する人だものね?僕が何言い出すか、戦々恐々なんだろ?大丈夫だよ、何も言うつもりないから。


『これ、結婚のお祝い』


手元の白薔薇の花束を彼に渡す。いや正確には、彼の左胸に勢い良く突き付けた。右ポケットに潜ませていたナイフと共に……。


…結構、力いるもんだな。突き刺すのも引き抜くのも。彼の目が見開かれたまま、ゆっくりと崩れ落ち視界から消えた。



「きゃぁぁ、誰か」
「ひ、人殺し」
「警察を呼んで」


誰かが叫ぶ。人殺し?ちょ、待ってよ。ねぇ、それって僕の事?違うよ。


だって、僕が刺したのは“人でなし”なんだもの。ね、僕は人殺しじゃないでしょう?


遠くで、サイレンが近付く音が聞こえた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫