《MUMEI》

 「フラワーショップ花風?あ、私ソコ知ってる」
翌日、友人との昼食時
ふとした時に、そんな話になった
「あの店、可愛いよね。店長さんも恰好いいし」
「……そう?」
「そうだよ!で?樹。その店がどうかしたの?」
どうやら興味は深々の様子の友人達
そのままバイトをすることになった旨を続ければ
「うそ!樹、あそこでバイトすんの!?」
店に行く口実が出来たと喜び始める友人
戸河内は冷ややかな視線を向けてやりながら
「……何ソレ」
訳が解らない、と呆れ顔
騒ぐ友人は放り置き、戸河内は弁当を食べ始める
「そう言えば樹。あんたって、彼氏居たんじゃなかったっけ?」
放っておいてもいいのか友人へ
「んー。いた、けど」
戸河内は曖昧な答えを返すだけ
未だに携帯はならないまま
最近では気にする事すら阿保らしく思えてきた
それは、それ以上に気になるモノを見つけてしまったからかもしれない
「何?喧嘩でもしたわけ?」
「ううん。自然消滅。なんか私の方もどうでもよくなっちゃって」
唯、互いが互いに興味がなくなってしまっただけ
所詮は他人、それだけの事
「もう止め止め。あんな奴の事なんて」
一方的に話を打ち切り、戸河内は席を立つ
そのままソコを後にしようとする戸河内へ
友人は何処へ行くのかを問うてきた
「私、午後の授業サボる。代返しといて」
それだけを伝えるとその場を後に
そしてその脚で向かったのは
「いらっしゃい」
あの、花屋だった
相変わらずの笑みで迎えてくれた店主へ
僅かに照れながら小声でこんにちはを返せば
店主はまた戸河内へおいでおいでをする
呼ばれるがままに中へと入ってみればその奥に作業台があって
ソコに切り花が散乱していた
「コレ、どしたの?」
随分と散らかっている様だがと指摘してやれば
相手は困った風な笑みにその表情を変えながら
「バラ売り様の切り花。包んでたんだけど量が多すぎて」
ソレで途方に暮れていたのだと店主
その様に戸河内は深々しい溜息を吐き
そして台挟んで相手の向かいにある椅子へと腰を降ろす
「このフィルムで包めばいいの?」
「ん?」
「……手伝っても、いい?」
やってみたい、との戸河内へ
相手は瞬間虚を突かれた様な顔で
だがすぐに笑みを浮かべて見せながら頷いていた
「ありがと。助かる」
それならこっちを、と渡された切り花達
相手のやる様を見様見真似で包んでみる戸河内
意外にもうまく包めた事に無意識に笑みを浮かべれば
「うん。上手に出来てる」
相手の手が上出来上出来と戸河内の頭を撫でてきた
まるで子供扱いで
それが何となくこそばゆい様な気になってしまう
「どうかした?顔、赤い気がするけど」
大丈夫?と相手の手が額へと移る
熱の有無を唯確認するだけ
たったそれだけの行為に、戸河内はなぜか脈が速くなっていくのを感じていた
「だ、大丈夫!本当、全然、平気!」
ソレを誤魔化すかの様に慌てて首を横へ振る
その仕草に、相手はフッと肩を揺らすと安堵したかのように良かったと笑う
年上とは思えない、素朴な笑みに
矢張り何か憂う様なそれが混じって居る様な気がして
戸河内はそれがどうしてか気になって仕方がなかった
「ね。一つ、聞いてもいい?」
「ん?何?」
「あの交差点のトコ。一輪だけ備えてる花あるけど、もしかして」
此処まで言って、相手が僅かに息を飲んだ
だがすぐにまた笑みを浮かべて見せると
「……もう、止めないとって思ってるんだけど。どうしても、止められなくて」
戸河内の問いを、会話の流れで肯定していた
ああ、そうか。この男は寂しいのだ
不意に見せる何かを憂う様な表情も、自分をバイトにと求めるソレも
全ては寂しさがさせている事なのだと、戸河内は理解する
「……仕方、ないな」
「え?」
徐に呟く戸河内
その声に僅かに驚いたような表情をする相手へ
その顔を両の手で挟んで自分へと向けてやりながら
「あんまり、役に立たないかもだけど、……よろしくお願いします」
つまり、承諾した旨を伝えてやっていた
相手が嬉しそうにはにかんでくれるのがどうしてか嬉しくて
ずっと、笑っていてくれればいい

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫