《MUMEI》
あと、一日
「しばらく休めよ、サトシ」
「け、けど、こんなところにいたら見つかるんじゃ」
「……かもな」
言いながらユウゴはユキナに視線をやった。
「わかってる。なんか、救急箱がないか見てくるね」
ユキナは頷くと、走って部屋を出て行った。
「ねえ、僕なら大丈夫だから、兄ちゃんたちは逃げなよ」
 震えるような声でサトシは言う。
その顔は青ざめ、汗だくでとても大丈夫そうには見えない。
その声を聞くだけでも無理していることが分かる。

「いいから、黙って寝てろ。多分、少しの間なら平気さ」
まるで確信はないが、ユウゴはそう言うしかなかった。
ここまできて、サトシを見捨てることなど出来るわけもない。

 彼の傷口をそっと見ると、まだ出血は続いているようだ。
しかし、その量は多くない。

 ユウゴはため息をつきながら、カーテンの閉まった窓へ近づいた。
その端から、そっと外の様子を窺う。
ちょうど、さっきユウゴたちが走って来た道が見える。
まだ奴らはこちらには来ていないようだ。

ホッと息を吐いた時、その暗い道を一人の人間が駆けて行く姿が見えた。

ユキナだった。

「おいおい、あいつ、どこ行くんだよ?」
思わず呟くと、その声が聞こえたのか後ろから「どうしたの?」とサトシが聞いてきた。
「いや、なんでもない。気にすんな」
ユウゴは言いながら、ベッドの横に座り込んだ。

 今のユウゴにユキナを追いかける体力は残っていない。
サトシをおぶっていたせいで両腕は麻痺し、痙攣していた。
もはや体中に負った火傷やら怪我やらで、いったいどこが痛むのかさえわからない。
自然とユウゴはその場に横になった。

部屋に置かれた時計はすでに深夜を過ぎていた。

「あと、一日だ」
誰にともなくユウゴは言った。
そして、大きく息を吐き、目を閉じた。

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