《MUMEI》

「俺の世話ばっか焼いてないで、偶には休めよ」
「ですが、良……」
「いいから少し寝てろ!いいな!」
有無を言わせぬ小野坂のソレに、ロイドは困った風な笑みを浮かべながらも
解りました、とそのまま眼を閉じる
完全に寝に入ったと分かったのは数分後
その寝顔を眺めながら、小野坂は傍らに膝を抱えて座り込んでいた
「……すっと前から、お前が傍に居てくれれば良かったのに」
そうすれば、自分はこんな風にはなっていなかったかもしれない
可能性を考えながらも今更だと小野坂は自嘲する
きっとすべてを話してしまえば、この機械とてきっと自分を軽蔑するだろうと
そう考えてしまえば酷く恐ろしかった
「……何を、泣いているんですか?良」
無意識に涙が頬を伝ったと同時
眠っている筈のロイドの手が不意に触れてくる
「お前、なんで……」
「このモードは、完全に意識が落ちる訳ではないんです。良の声が聞こえた気がしたから」
だから眼を覚ましたのだと、笑みを浮かべ
ロイドは小野坂の腕を僅かばかり強く引くとその身体を抱きしめていた
「ロイド、離っ――!」
「話して、ください、良。話してくれたら、俺も離します」
「話すって、何を――!?」
「あなたが泣いていた、その理由を」
無理に聞き出すつもりなどなかった
唯、小野坂に泣いてほしくない、そう思っただけで
自分がもしその支えになれれば、とそれだけを切に願う
「……かよ」
「良?」
「あんな事、言える訳……!」
ない、と最後までは言えなかった
喉の奥に何かが詰まって居る様な気がして
下手をしたら呼吸さえもうまくいかない
「……離、せ。離せってば!!」
「良!!」
訳が解らなくなり、喚いてしまえば
抱く腕が更に強くなる
違う事位、解っている
この腕が自分を傷付けることはないのだと
だが
「……言えば、お前、俺の事軽蔑する」
もし全てを話して、この手を振り払われてしまったら
もう二度と、自分は立ち直れないだろうと
それが、唯々怖かった
「……どうしてアナタは、そんなに頑ななんですか」
「昔から、頑固だってよく言われる」
「俺の事が、そんなに信じられませんか?」
例え小野坂にどのような過去があったとしても
小野坂を否定する事だけは絶対にしないのに
今の小野坂にはどうしても、それが伝わってくれない
唯嫌々と首を振るばかりだった
「……お前の事は、信じ、たい。でも――!」
言葉も途中に、小野坂がロイドを抱き返してくる
縋る様なそれかと思えば互いを隔てる様なソレにもなり
そのもどかしさに、だがロイドは何を言う事も、する事もなく
暫く小野坂のしたい様にさせてやるばかりだった……

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫