《MUMEI》 家族 (4)「そうそう、そうなんだよね。自分のためなら、そんなに勇気も 意欲もわかないけど、人のためなら、がんばれたりするよね。 それが、正義感ってやつで、不思議な力の源(みなもと)で、 逆説的だけど、結果的に、いつのまにか、人のためにやることが、 自分のためになったりするんだよね、なんか不思議だよね・・・」 そう語りながら、森川は、おいしそうに、ビールを飲んで、酢豚をつまんだ。 「そうそう、美咲(みさき)ちゃんも、いま、予備試験を受けているんだってね。 見事(みごと)に、受(う)かれば、法科大学院に通(かよ)わなくたって、 司法試験を受けられるんだから、美咲ちゃん、すごいよ、超優秀! 司法試験とかの合格祝(ごうかくいわ)いのパーティは、 ぜひ、わたしにさせてください」 森川は、そういいながら、左隣の美咲のグラスに、ジュースを注(つ)ぐ。 「森川さん、ありがとう。わたしも、弁護士を目指して、猛勉強しているの。 いまのところ、予備試験も、7月にあった論文式までは、 なんとかクリアーな気がしているんです。おかげさまで」と美咲。 「お姉ちゃんは、すごい猛勉強をしているのよ、森川さん。民法の本とか、 自分で声を出して読んでいるのを、録音して、それを家の中で、 いつも流して聴(き)いているんだから。わたしたちも、それを、 毎日のように聴かされるんです。きょうは、まだ、そのお経(きょう)にたいの、 流れていないんですけどね。知らず知らず、その聴かされる民法を、 覚えていたりもするんです。そのくらい、がんばらないと 覚(おぼ)えられないんでしょうけど。 わたしには、とても、お姉ちゃんのマネはできないです!」 そういって、無邪気で、ほほえましくなるようで、どこか、はにかむ、 美樹の笑顔を、みんなは見ながら、わらった。 「そうそう、森川さん、今度、森川さんの会社に、川口信也さんが 入社されるんですよね。わたしの大切な先輩ですので、 どうかよろしくお願いします」 といって、美樹は椅子から立ち上がって、テーブルの向かいの森川に、 ていねいに頭を下げた。 「美樹ちゃん、その話は大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。 わたしの次男の純(じゅん)と同期の親友ですから。 純が、あの男ならと、認める友達ですから。 わたしたちが、しっかりサポートして、 川口信也さんには、いい仕事をしてもらいますから。 そうか、うちの純と川口信也さんは、美樹ちゃんの大学の、 今年卒業の先輩だもね。 大学公認のバンド・サークルの、ミュージック・ファン・クラブ、 なんていったっけ、そうそう、よく純が、MFC、MFC、 っていっている、そのサークルで、美樹ちゃんと、楽しく、 1年間を過ごしてきたんだったよね。 川口信也さんは、できるかぎりの最高の待遇を用意します。 美樹ちゃんも安心していてください」 森川は、美樹に、社長らしい自信ありげに、優しくほほえんだ。 <つづく> 前へ |次へ |
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