《MUMEI》

クラリネスはミリオンマップに現在記載されている中で、唯一の《都市》である。

それ故に、かどうかは曖昧だが、施設や面積、住宅地の異様な広大さは並々外れたものであろう。

そしてそれらの原因故に、人口密度も果てしない。

更にそれに拍車を掛ける出来事が、今日の昼下がり、起こっているのだ。

それは誰もが震撼した言うなれば《被害者公認監禁事件》である事は、口に出すまでもない。
あの事件の後に自宅又はアジトで作戦、という考えのプレイヤーは少なくない筈だ。

そんな中で唯の一人を捜す、というのはかなりの精神的な疲労が予測される。

「うわ……人だらけ。」

早速吐き気がする程の人混みが視界一杯に広がった。


ハルの家を辺境にしようと提案したのはこの事もあった。確かにクラリネスは過ごし易い作りの街だと思うし良い雰囲気の家は沢山在るが、何せ、人口が多すぎる。

人酔いどころの話ではない。ハルとの楽しげな時間を家で過ごした後にこの人混みは、泣く。

「はぁ。でも、このアイテムがない他の皆はこの人混みの中で捜してるんだもんな…。」

しかも、俺の為に。

その意識が俺に呼ばれた様にすっと体の奥らへんに沈む感覚を確かに感じた。

知らずの内に眉間にしわが寄る。

屋根に汚れがない事を視認すると、ゆっくりとその場に腰を下ろし、一度深く目を瞑った。

夕方の涼しげな風を頬に心地好く感じながら瞳を開き、また《千眼鏡》に目を落とした。

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