《MUMEI》

太陽の姿がいよいよ見えなくなり、夕陽の残光だけが世界を照らす頃、カケルはいよいよラストスパートを迎えていた。

思ったよりもかなり速かったな…流石は《千眼鏡》か……。

などと関心半分不安半分の心で唱えると、余計に焦りが込み上げた。

もし、沙弥がいなかったら。

何らかのトラブルで特大ダメージを負ってしまったら。

何らかの理由で臨戦宣言を受けてしまったら。

具体的な情景は想像したくなくても脳内には浮かんでしまう。それが断片的であっても、鳥肌がたつのは当然だ。

「あとは最後の通りだけか…。」

またも独り言を呟きながら、視線は《千眼鏡》を隈無く見渡す。念入りに、黒髪が視界で揺れる度に、目を止めた。

しかし、それらしき人影はいない。

最後の通りも見渡して、思わず深い溜め息を吐く。

「終わってしまった……。」

現在時刻はなんと十九時に迫ろうか、という十八時四十九分だ。恐らくかなりの確率で断トツだろう。

約束は八時にアカネの家。


それまで約一時間。


ここでじっとする俺ではない。

「うっし!」

出しやすいトーンの声を気を入れる為に出し、軽い準備運動を整えて行く場所を目掛ける。

さて、何処にするか。

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