《MUMEI》
片想い。
只今絶賛売り出し中の、この子は、カメラマンの林さんに片想いをしている。


じゃあ、またな。と笑顔を向けて去り行くカメラマンを、ちょっと刹那げな顔で見送る彼の肩をポンと叩いた。


『お疲れ様、今日はまた格別良い表情してたね』
「ん、あ?マネージャーか。……別に、いつもと変わらないし。」


自分の中の感情を誤魔化すように、少しだけ口を尖らせて眉を潜め拗ねた目をする、この子が愛しい。まだ十代の彼にとったら、その感情は初恋と呼べる物なのかもしれない。


私が彼の担当になってから2年が過ぎた。最初は、ただの生意気なガキだったのに。いつの間にか、周りに磨かれ、切ない恋も経験し、大人びた良い表情をするようになっていた。

子供から大人へと、毎分毎秒刻みに形を変え色を変え、この子は成長していく。瞬くのも躊躇う程に…。気付けば、この子に魅了されて捕らわれている自分がいた。そして、胸に宿るこの子への確かな想い。

勿論、告白なんて青臭い事は毛頭考えていない。ただ、日々この子の傍でこの子の為に役に立ちたい、そう願うだけ。


「ね、マネージャー。次は?」
『ん、次はね。メンズ雑誌の取材が入ってるよ』


じゃ、頑張るかぁ!と伸びをする彼を、可愛いなと目を細めて眺めつつ、眼鏡を人差し指でクイッと押し上げる。デレてる場合ではない、私は敏腕マネージャーなのだから。


いつかこの子にも恋人が出来る日がきっと来るだろう。来るべき未来を思うと、胸の奥がチクリと痛むが、この子が幸せになるのならば喜ぶべき事なのだ。三十路過ぎの私の想いなど、取るに足らない想いなのだ。


「あのさ、マネージャー。林さんとの仕事って、またあるかな?」


少しばかり頬を染め、でも通常を装いながら聞いてくる。
あーもう、なんて可愛いんだろうね、この子は。
林さん、すまない。今だけ貴方に嫉妬するよ。


『…うん、あるよ。大丈夫、待っておいで。君のマネージャーは敏腕なんだから、ね?』


力強く言ってやれば、たちまち破顔、後に別に待ってなんかないんだけどね、と宣う。くくっ、と笑いを堪えれば、キロリと睨まれた。


『さあ、雑誌記者の方々が到着されたみたいだよ?行っておいで?』
「はーい、敏腕マネージャー様。」


舌をべっ!と出し、バチンとウインクをして駆け出す愛しい君。この切なくも幸せな時間が少しでも長く続きますようにと祈らずにはいられない私なのでした。





☆三十路過ぎた敏腕マネージャーが担当タレントに片想いの図。

駄文でスミマセン。次に繋がるのを祈るばかりです。

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