《MUMEI》

「……うぷ…。」

この三十分程、私の視界は人で満たされていた。

しかし、それは自分で望んだ状況とも言えるので、仕方が無いと言えば仕方が無い。

でも、流石に少し(の反対)気持ちが悪くなってきた。

これが新ミリオンヘイムオンラインの嫌なところだ。こんな嫌悪感迄も再現する必要が全く何処にあったのだろうか。

などと文句をつけ続け、段々と人に呑まれ流されていく。そんな中でも、ギリギリだが視線は人を見続ける。

黒髪、ショート、犬の雰囲気、名前はサヤ。

カケルの妹の特徴を持った女の子を見つけては、多少強引に人を掻き分け、尋ねていった。

でも、もう……。


「ハル!」


耳慣れたその呼び声と共に、倒れかけた私を支えた両手の感触が両の肩にあった。

「カケル!どうして此処に?カケルは北担当じゃ…。」

振り向き顔を確認すると、妙に安心した気持ちになった。吐き気が意識から遠退いていく。

「俺の見た限りじゃ北はいない。だからみんなが曖昧になりがちな真ん中らへんを狙おうと思ったら、顔色変えたハルが人混みに埋まってたから。」

急いでくれたのだろう、息が荒く頬に一筋の煌めきが伺える。というか、苦笑するしかない。

こんなことで心配されるなんて、なんて情けない事だ。

「…ありがとう。でももう大丈夫だから。」

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