《MUMEI》

七生と話さなくなった。朝も帰りも別々。

これでいい。





「二郎君!」


「国雄さん……今ツンの散歩帰りですか?」

ツンを連れた国雄さんがジャージで歩いている。2メートルの大男がチワワを率いる様はいつ見ても面白い。


「そー。お土産ありがとね。

二郎君、また痩せた?
この場合やつれたかな?ごちそうしてあげるよ。」


半ば強制的に近所の喫茶に連れてかれた。ツンは店の前に括られている。


「ナポリタンは?飲み物オレンジジュース?俺、フロートにしようかな。あと珈琲ね。」
国雄さんはテキパキ頼む。仕事で慣れてるのかな?


「あの〜……晩御飯があるので」


「もう頼んじゃったよ。俺とお話しましょ。」
両手を合わせて右頬にくっつけた。カッコイイ微笑みでその動作は不自然だ。

頼んだものが届き終わり、下らない世間話もナポリタンと同じペースで減ってきた。


「あ、ごめんね?




………くわぁ。」


国雄さんは手で抑えながら大欠伸をする。


「寝不足ですか?仕事大変なんですよね」
よく見たら目の下が黒くなっている。


「これ、プライベート。
ってか、音がね……。聞こえるの。」


「怖い話駄目です!」


「…………君の名前だよ。二郎君。


おかわり下さい。」

国雄さんは至って冷静に二杯目の珈琲を飲む。


「……え。」
フォークが止まる。


「なな君はきみが欲しいみたいだよ。」


「俺達のこと……」
なんて言えばいいのやら。
国雄さんの左手が俺の耳を掴む。突然の出来事に身が縮こまる思いだ。


「あはー、真っ赤!

雰囲気で解っちゃった、俺も男と付き合ったことあるし。」
爆弾発言……!さらっと言う辺りが流石……


「あの、親には……」
まさかバレてる?


「なな君最近ね、壁に向かって蹴りながら君を呼んで一人勤しんでるよ。
両親に言わないから、ちゃんと、話し合ってあげて。

ちょうど帰宅する朝方に暴れるから眠れないんだよね。このままじゃ仕事中に倒れる。」
本当に眠たそうだ。


「でもちゃんと話せる自信なくて……」
七生を見たら、別れる意思が弱まる。


「二郎君ね、思い詰めすぎ。誰を好きになってもいいじゃない、普通の恋愛じゃないと捕まる法律でもあるのかい?
すぐ考え込むからなな君の素直さに惹かれたんじゃないの?

意地張らないで話してみなよ、会いたいって顔に書いてある。


若者はね、もっと本能のまま生きてもいいんだ。」
珈琲を啜る姿がより、国雄さんを大人っぽく見せる。


「……はい」
俯いてナポリタンに再び手をつける。なんか、頭に渦巻いてた重みが少し減ったみたい。単純になった。バラバラのパズルを嵌め込まれ、足りないピースを知らされたような、感覚。

頭を二回軽く叩かれた。







「いい子だ。
後悔してからじゃ遅いからね。」
そう笑う国雄さんの彫りの深い顔にうっすら影が出来て、寂しそうに感じた。

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