《MUMEI》

「んー。」

暫くの沈黙。

「……あ、なんか腹減らない?」


……………は?


「俺、この近くに良い団子屋知ってるんだけど。」

なんなの、こいつ!?

本当に、カケルの思考は追いきれないにも程がある。一体今の会話のどの辺に空腹の要素があったのだろうか。

なのに、お腹に手を当てて周りをキョロキョロする仕草は本当にお腹が空いている風にしか見えない。

「で、でもサヤちゃんはどうするの?捜さないと!」

「だから、その為にも行くんだって。あいつ甘いもの好きだからさ。ま、金を持ってるかは知らないけど。」

その余裕綽々ぶりはいつでも変わらないらしく、この状況でもカケルのそれが窺えた。

「…みたらしなら。」

そんな彼に振り回されるのが日常になっていることに、最近の私はかなり呆れている。

「了解。」

頬を吊り上げそう言うと、カケルは人混みを抜けて路地裏を目指した。見失わない様に後を追う。

多少の吐き気は飲み込んで、あと少し、あと少しと自分に言い聞かせた。

そして、漸くその`あと少し´が訪れると、カケルはすぐに地面を強く蹴り、壁を二三回利用して身近な屋根に静かに降り立った。

「ん。」

それだけ言って手の動作が入る。

登れ、と。

「はぁ。全く…。」

溜め息を吐きながら、カケルより一秒長いタメを入れる。そして、息を素早く吐いてから一気に屋根上へ立つ。

勿論、大きな音を出すことは一切していない。

「こっちだ。因みにオススメは常連しか食えない焦がし醤油海苔つぶあん付きだ。」

「みたらしで。」

適当に返事をすると、つれないな、と言って、早足で屋根上を歩き出した。

「…サヤちゃん、今日中に見つかるといいわね。」

「あぁ、見つけるさ。あいつのことだから、俺に会ったら泣くんじゃないかな。」

そんな冗談まがいな事を呟いていても、瞳はずっと人混みの通りを見詰めて離れない。
カケルがどれ程真剣にサヤちゃんを捜しているのかが判る。

それなのに何故、私を団子屋に誘ったんだろう。

やっぱり、私の体調を少しでも休める為かな。

「…みたらし食べたら、すぐに捜索に戻るからね。尽力するから。」

それから少しだけ間があって、でも瞳は通りを追っていた。


「ありがとう。」


なんだか、妙に息苦しい気分になった。

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