《MUMEI》

「ははっ…」

「何ですか…」

擽ったそうに笑いだす伊藤さんに俺は缶ビールを向ける。



伊藤さんはすっとグラスを傾けて、俺は注ぎ足した。

「…いや、そうだよなー、実際19にもなって飲まねえ奴なんかいねーもんな、…
…あれ?後何ヶ月で二十歳なんだ?」



「四月生まれなんで、後四ヶ月です、伊藤さんは誕生日いつなんです?」

「…うーん実は…五日後だったりする、また一つ…独身のままオッサンになってしまう…はぁ…」




伊藤さんはつまらなそうに溜め息を吐いた。




伊藤さんはかなり暫く、彼女らしい彼女がいないらしい。



話なんか、人柄だって面白いのに何で世間の女性は伊藤さんに気が付かないんだ…と、
不思議でならない。

――俺が女だったら付き合いたいけどな…


つか


ちょっと…何考えてんだ俺……。
バカか…。



「なあ、ゆうちゃん、誰か紹介してくれよ」



「は?誰かって…どんな人が良いんです?」

何だろ



何だろ…




胸が急に苦しくなってきた……。

伊藤さんはグラスを一気に煽り空にし、


テーブルにトンと置いた。

「そうだな…、美人にこしたこたねーけど…優しくて健気な子に弱いんだよな…、そう、ゆうちゃんみたいな!あーあ、ゆうちゃんが女だったら今すぐ口説いちゃうんだけどなぁ……」

にこにこ笑いながら俺を見てる。




そうだ…本当は…






――恋愛は男と女でするんだった。






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