《MUMEI》 多摩川(たまがわ)花火大会 (2)現在、松下陽斗(まつしたはると)は、東京・芸術・大学の音楽学部、 ピアノ専攻の2年。 父親は、下北沢駅近くで、ジャズ喫茶を経営している。 ジャズの評論とかも、雑誌に書いている、ジャズの著作家だった。 美樹は早瀬田(わせだ)大学の教育学部の2年。美樹は進路に迷(まよ)っていた。 芸術;高校の生徒たちの中で、自分には特別な才能があるという、 自信が持てないのだった。現在、美樹は、中学校の教師になろうと、 漠然(ばくぜん)と思っている。 「わたしたちの芸術・高校は、なくなっちゃったね」 美樹の満面(まんめん)の笑みが、一瞬だけ消えた。 「しょうがないね。時代の流れってやつだから。 おれらの学校は、完全になくなるんじゃなくて、新宿(しんじゅく)の 総合芸術・高校に受け継がれるというから、まだ、よかったよ。 また、こうやって、一緒(いっしょ)に、花火なんて、 うれしいよ。高校のころの気分を思い出せそうで。 でもきょうは、大勢(おおぜい)だなぁ、女子高生もいたりして。 何人いるのかな?」 陽斗(はると)は、小田急線の成城学園前駅・南口に集(あつ)まった、 みんなを眺(なが)める。 「みんなで、12人だよ。予約したテーブル席(せき)が、 12あるから、ちょうど、12人に、お集(あつ)まりいただきました」 森川純(もりかわじゅん)が、陽斗にそういった。純の思いつきで、 みんなを招待したという形の、今回の花火の見物であった。 はじめ、陽斗(はると)は、美咲(みさき)と、ふたりで、この花火大会に行く予定だった。 純が、陽斗に、花火大会のことで、メールしたら、 それだったらと、予約席を用意するから、一緒にいこうという話になったのであった。 8月18日の土曜日の午後4時であった。 上空は、雨雲などない、よい天気だった。 集まった、みんなは、12人。 清原美樹(きよはらみき)、清原美咲(みさき)、松下陽斗(まつしたはると)。 早瀬田(わせだ)大学1年のときに結成して、卒業とともに解散して、 また再結成が実現した、 ロックバンドのクラッシュ・ビート(Crash Beat)のメンバーの4人。 ドラムスの森川純(もりかわじゅん)、 ヴォーカル、リズムギターの川口信也(かわぐちしんや)、 ベースギターの高田翔太(たかだしょうた)、 リードギターの岡林明(おかばやしあきら)。 岡林明の妹の高校1年、15歳の香織(かおり)、 香織の友だちの女子高生が3人。 高田翔太と、仲のよい早瀬田(わせだ)大学3年の山沢美里(やまさわみさと)。 そんな男女、12人であった。 2012年で、34回目を迎(むか)える、 世田谷区の夏の風物詩、世田谷区・多摩川(たまがわ)花火大会は、 多摩川の水辺(みずべ)、 二子玉川(ふたこたまがわ)緑地運動場でおこなわれる。 昨年は、東日本大震災の影響で、休止であった。 花火という、音と光の芸術を、楽しもうと、 未来への希望をのせて、およそ6500発の、 華(はな)やかな花火が打ち上げられる。 <つづく> 前へ |次へ |
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