《MUMEI》
多摩川(たまがわ)花火大会 (3)
5時30分には、ステージ・イベントの
オープニング・セレモニーとして、
高校生の和太鼓部(わだいこぶ)による演奏や、区民の合唱団による合唱、
囃子(はやし)保存会による囃子などが披露(ひろう)される。

交通渋滞(こうつうじゅうたい)もあるので、成城学園前駅・南口から、
二子玉川緑地運動場まで、みんなは歩いていく。

花火の実行委員会も、交通渋滞のために、徒歩を推奨(すいしょう)する。

徒歩で片道30分から40分くらいかかるのだが、それも楽しいものだった。

森川純が、観覧(かんらん)スペースの最前方の、
丸テーブルと椅子(いす)の12席を、用意してくれていた。

「しかし、想定外(そうていがい)だったなぁ。
おればかりじゃなく、翔(しょう)ちゃんも、明(あきら)も、
純に説得されて、純のご尊父(そんぷ)の経営する会社・
モリカワに入るとは・・・。
おれらの、クラッシュ・ビート(Crash・Beat)のバンドが、
そのまま、モリカワに入社するわけじゃん・・・」

そんなことをいいながら、川口信也は、
そのうしろを歩く、高田翔太や岡林明を見て、わらう。

川口信也と森川純は、12人の先頭を歩きながら、
会社・モリカワの仕事のことや、バンド活動のことなど、
終わりのない、果(は)てのない話をしている。

「純は、話の持っていきかたが、うまいよ。いつもそうだよな。
モリカワの経営計画や経営戦略とか、説明されて、
マジ、びっくりしたし、感動したよね。
モリカワが、レストランとライブハウスの合体したような店を、
東京を始めに、全国に展開していくという、事業計画。
実現すれば、すごいことになっていくね」

高田翔太は、前を歩く、森川純や川口信也や、
となりを歩く、いつもどこ吹く風という感じの、岡林明に、そう話した。

「下北沢にある、ライブ・レストラン・ビート(Beat)を、1号店として、
新宿や池袋とか、東京のあちこちに、姉妹店を展開して、
そして、全国展開を考えるなんて、壮大な計画だよね。
インターネットをフル活用するっていうし。

おれたちを、会社経営の中枢(ちゅうすう)の、
重役(じゅうやく)ポストで迎えてくれるってことも、気に入ったし。

レストランやライブハウスのサービス業だから、休みも少ないだろうと思ってたら、
週の2連休や大型連休もあって、年間休日は、120日あるっていうし。
まあ、それくらい、休日がないと、労働意欲も続かないんだけど。
休日は、これからも、増(ふ)やせるだけ、増やしていくっていう
社長のスケールの大きさっていうか、人間性の豊かさもいいよね。

いまの社会じゃ、入社しても、23歳なんて、新人の見習いだろうし、
将来の夢とか、自由なんて、なかなか、持てそうもないしね。

モリカワ、ばんざーい、ってところかな。なぁ、翔(しょう)ちゃん」

岡林明は、そういいながら、隣(となり)の、高田翔太と肩を組(く)んだり、
ストレッチでもするように、晴れわたった青空に、両手を広(ひろ)げる。

「なんてたって、信(しん)ちゃんが、山梨からもどってくるから、
おれらのバンドが、またやれることが最高だよね。
職場が同じで、休日も同じ。いいことばかしって、感じかな?」

高田翔太は、そういうと、前を歩く、森川純と川口信也の肩を、1度ずつ
すばやく、軽く、たたいた。

「仕事となると、いろいろと大変だとは思うけど。よろしく。
4年間、大学とバンドで、つきあってきた、信頼とかチームワークを、
このモリカワの仕事に生かしたいと、考えたんだよ」

と森川純はいって、わらった。

「みんな、がんばってー!」と、うしろから、何人かの女子高生たちが叫(さけ)ぶ。

みんなに、明るい笑い声がもれた。

「なんで、こんなに、女子高生がいるんの?」と川口信也が森川純に聞く。

「席が余(あま)ちゃったのと、彼女たち、近頃(ちかごろ)のオトナというか、
オヤジたちに、ウザイとか、ムカツクとかいって、幻滅(げんめつ)しているようだからさ。
おれだけでも、点数を稼(かせ)ごうかと思って・・・。女子高生は好きだし」

そういって、純はわらった。信也(しんや)や翔太(しょうた)や明(あきら)もわらった。

<つづく>

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