《MUMEI》

「おばちゃん、いつものとみたらし!」

「はいよー!」


香ばしい匂いに包まれる空間であろう団子を焼く網を挟んでの二人の会話が聞こえてくる。

人間恐怖症なんだよね。の言葉で何度嫌なことを押し付けられたか。

この仲の良さを見ると、その言葉は嘘と言いざるを得ない。

「…良い匂いですね。」

さりげなく会話の溝を突いて参加を試みる。

「だろ?ミリオンヘイムオンライン一の団子屋だぜ。」

「言ってくれるねぇ。」

やっぱり仲がいい。

でもその理由よりも気になる事がある。

「カケル、通りを見てきたら?もしかしたらサヤちゃんが通るかもしれないし。」

「…ん、そうだな。見てくるよ。」

カケルは少し私と店主を気にした様だが、すぐに通りに消えて行った。

「…店主さん、ですよね?」

「まぁ、そうなるね。みんなは`セツさん´って呼ぶけどねぇ。」

そういえば、道中の説明でそんなこと言ってたかも。

「あの、セツさんに聞きたい事があるんですけど、いいですか?」

セツさんは一度私の目を見て、すぐにまた香ばしい団子に目を落として焼き具合を見た。

「秘伝のタレの隠し味以外ならね。なんだい?」


「…どうしてセツさんは、ミリオンヘイムオンラインに残ったんですか?」


此処に居るということは、ゲームに残り攻略していく事を選んだという事だ。

まだ、十代から三十代なら解らないこともないが、セツさんは見た感じ六十を越えている様にも感じる。

少しの沈黙の後、重い口がゆっくりと動き出した。

「私には十五の孫がいたんだ。」

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