《MUMEI》 いた。 多分これから話してくれるだろうけど、過去の事だという事実を早々に伝えるその言葉はなんとなく心に染み付いた。 「その子はゲームが好きで、ミリオンヘイムオンラインをやってたんだ。」 記憶を辿るような、寂しそうな声が火の音を掻き消す。 「現実でも団子屋をやってて、それなりの収入があったから、なんとなくこのゲームを買ってみて、驚いた。体は軽いし人が多いこって。」 少し声が大きくなるが、表情と声の奥の質は変わらない。 「孫は別の場所に住んでいて、いつも会える訳じゃないが、ゲーム内では会えたのさ。」 「今、そのお孫さんは…?」 その表情に惹かれ、ついつい口を出してしまった。 「死んだ。現実の事故で。」 「…………………。」 「このゲームには息子と同じくらいの子供が沢山いるだろ?カケルとか、ね。それが理由さ。まぁ団子屋も上々だし、それなりに楽しいさ。」 絶句してしまった。 死んだ。事故で。昨日まで生きていた人間が。 どれ程の悲しみかは量れない。当人にすら無理な事だ。 しかし、同時に思った。 この世界にいる限り、私がその`孫´の立場になる日が来るかもしれないのだ、と。 勿論、現実世界にたとしてもに日常に潜んだ死は常に付きまとう。 が、このゲーム内ではその確率やら可能性やらが何十倍にも膨れ上がると言っても過言ではない。 「さ、出来たよ。カケルにも渡して。あとこれ、サービス!」 すっかり最初と変わらない雰囲気を纏ったセツさんは、本当に出来立ての熱そうな団子を三本、私に手渡した。 「あの、これは…。」 「うちのオススメ、常連しか食べられない焦がし醤油海苔つぶあん付き、名付けてセツスペシャル!不味いとは言わせないからね!」 その笑顔を見たら、なんだかお母さんに会いたくなってきた。 前へ |次へ |
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