《MUMEI》

ありがとうございます、と軽い会釈をして通りへと駆ける。

久々だ。

母に会いたいと思うなんて。

幼い頃の迷子以来かもしれない。見て見ぬフリをしていた感情の蓋が、開きかけた。


「あの、みたらし団子ひとつ下さい!」


私の横を抜けた黒髪ショートの小さな女の子が、大きな声でセツさんに注文するのが喧騒の中で耳に入った。

意味もなく振り返る。

理由は上手く言えないが、胸騒ぎというやつが心をざわつかせたのだ。

黒髪ショートの犬っぽい少女。


「…サヤちゃん?」


意識もせずに発した一声。

しかし、彼女の耳は捕らえた様だ。

「なんですか?」

振り向いた少女の瞳は、カケルと同じ赤みを帯びた茶の色。

確信した。

彼女は`サヤ´だ。

「貴女を捜していたの。カケルと一緒に。」

そう言うと、サヤちゃんは目を見開き頬を上げた。

「ショウ兄と…?」

ショウニイ。今の彼をそう呼べるのはたった一人しかいない。私は更に嬉々とした。

「ええ、今カケルを呼んでくる。ここで待っていて。団子でも食べながらこれからの事を話しましょう。」


私は再び人混みへ足を向けた。

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