《MUMEI》
猫背と黒髪
おれの高校は三学期になると、始業式を除いて三年生は原則的に自由登校になる。

クラスの半分が受験を控えていて、もう半分は進路決定組だ。

おれは去年の暮れにスイセンで合格して、今は勉強から解放されている。

大学は平々凡々の三流大学だけど、あまり頭のよくないおれにしては頑張った結果だった。

正直、合格通知をもらった時はほっとした。

三年間マジメに授業は受けて来たつもりだけど、とても受験して合格なんて無理っぽかったからだ。

通学に片道二時間はかかるけど、見学した感じは上々の雰囲気だった。



始業式後のホームルームで担任が何やら熱心に話をしているが、聞いてるヤツは居ないみたいだった。

三回目になる王貞治の武勇伝なんて誰も聞きたくはないのだ。
野球部のヤツラでさえ、教習所の話に夢中だ。

もう英単語や古文単語を覚えなくても良いとなると、途端にこんな隙間の時間にやる事が無くなってしまって暇になる。

隣の席の田嶋に話しかけてみた。

ショートヘアで黒髪の田嶋はせっせと英単語を暗記していたようだったが、元々余り集中出来ていなかったからか、すぐに反応した。

田嶋は前におれを動物に例えて言ったことがある。

「タナは…アルマジロに似てるよね。なんか雰囲気とかが。」と。

おれは友達からタナと呼ばれてる。苗字が田中だからタナ。カタカナはおれのイメージだ。

田嶋がおれのことをアルマジロと例えたのは、クラスの人達を動物に例えると何になるか、とかいうクダラナイ話の中でだった。

「黒澤は狼って感じだよな。」

その日は例の如く、つまんないホームルームの最中におれは田嶋に言った。

サッカー部でレギュラー、なのに成績優秀な黒澤は友達も多そうだけど、おれには孤高の狼に見えた。

「ああ。そうだよね。何かそんな感じ。」

田嶋はおれの意見に賛成してくれた。

「大崎くんは…狐かなぁ。」

田嶋もクラスの人達を動物に例え始めた。

大崎はおれの一番何でも話せる友達だ。
入試を控えて、せっせと政経の問題集を解いている。
部活で知り合った天然茶髪のマネージャーと付き合ってるそうだ。
田嶋がこのあいだ遊園地帰りの二人を見かけたらしい。

「そう?おれはリスって感じがするけどなぁ。」

「じゃあ、ちはるは?」

「新谷?…猫だな。」

新谷ちはる。
おれが知ってるのは、ジャニーズ好きってことぐらいだ。
いつも女子Aグループの中心にいる。
おれがもし、新谷と二人きりにでもなってしまったら、間違いなく五分ともたないだろう。

「田嶋は犬っぽいよな。」

「なになに〜?
どういう所が犬っぽい?」

「いや、上手く言えないけど…。」

他の人に比べて、田嶋を犬に例えたのは直感に近いものだった。

なんと言うか、上手く説明出来ないけど。

「タナは…アルマジロに似てるよね。なんか雰囲気とかが。」

そうして田嶋は反対におれの事をそう例えた。

「アルマジロ?
あの丸くなるヤツ?」

「そう。」

正直、おれはもう少しかっこいい動物に例えて欲しかった。

けど、自分でも何となく一番しっくりきているように感じられたから不思議だ。

多分田嶋に言われたからかもしれない。
田嶋の発言にはなんだか妙に説得力があるのだ。
普段から余り多数派にならない節がある田嶋は、いつも物事を一歩ひいた所から静かに見ていて、ここぞという時にスパッとその言葉で一刀両断する。

言われてみると、猫背のおれは確かにアルマジロだ。

性格は臆病だし、見知ったヤツにしか楽しく話が出来ない。
他からとやかく言われると、いつまでもクヨクヨして丸くなる。
本物には申し訳ないが、思えば思う程似ているかもしれない。
田嶋が普段のおれを意識して言ったのかどうかはその時には聞けなかった。

つまらないホームルームはこういう時に限って短いのだ。

田嶋の真意を聞くには到底足りる物ではなかった。

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