《MUMEI》
1
 見た目、小動物。それが第一印象だった
それから時々話すようになって、それなりに親しくなれば
自分の後ろをいつも小走りに追ってくるようになった
その姿はまるで、その名前の通り(子ガモ)の様だと、常々思っていて
「……あいつは?」
昼休み、学生が集まる多目的ホールへととある人物を探しに来た鳥谷 隆文は
偶然ソコに居た知人にその所在を問うていた
「あ、鳥谷くん。コガモなら屋上行くってさっき小走りで出ていったよ」
「屋上、ね。分かった、ありがとな」
探し人の居場所を教えてくれた相手へ短く礼を返し
鳥谷は屋上へと続く階段を登っていく
ソコに出て、辺りを見回して見れば、探す人物の姿をすぐに見つける
「……ホールで待ってろって、言ったと思うけど」
まるで何かから隠れるかの様に身を潜めるその後ろから声を掛けてやれば
驚いたのか、僅かに身を弾ませ、ゆるり振り返ってくる
「鳥谷クン……」
「こんだけ広い屋上で何でこんな隅っこに居んだよ、お前は」
相手が身を潜ませていたのが屋上の隅、丁度過度にあたる場所で
何故かこの相手はこういう場所ばかりに収まりたがるのだ
「……まぁ、いい。処で、メシは?」
「まだです」
「……じゃ、食うか」
「はい」
そして互いに向かい合い、食事を始める
ちまちまと持参してきたらしいパンを食べ始める目の前の相手は小鴨 ひより
二人顔を突き合わせて昼食をとるに至っているのは
数か月前、道端で座り込んでいる小鴨を鳥谷が見つけたのが切っ掛けだった
「お前、最近はちゃんと朝飯食ってんのか?」
以来、何かと気に掛けてしまっている訳で
小さなパン一つをもそもそと食べる小鴨へ、溜息交じりに問う
小鴨はパンを口から離すと、鳥谷の方をまじまじと見やりながら
「……お腹、一杯です。鳥谷君、あげます」
徐に、食べ掛けのパンを差し出してきた
見れば半分も食べていないソレに
「まだ半分も食べてねぇだろ。足りんのか?」
一応はソレを受け取ってやりながら問うてやれば
小鴨は頷いて返し、一緒に買っていたらしいコーヒー牛乳へと手を伸ばした
どうやら本気で満腹らしいと、鳥谷は受け取ったソレを食べ始める
互いに交わす言葉は少なく、それでも一緒に居るのは
互いが互いに取って、何となく居心地のいい相手だからなのかもしれない
「そうだ、鳥谷君」
「ん?」
「今日の講義は、もう終わりですよね?」
「そう、だけど?」
おも室なソレに、何かあるのかと小鴨の方を見やってみれば
小鴨は鳥谷の目の前へ、とあるチラシを見せてくる
それは近所のスーパーのチラシで
「……お前、コレ態々持ってきたのかよ?」
「はい。だからここにあります」
「……で?もしかしなくても、ここに行くのに付き合えって言うんだろ?」
小鴨が言わんとしている事を先に言ってやれば
正解と言いたいのか、小鴨は小さく頷いて見せる
「付いてきてくれたら、ご飯、あげます」
「俺は犬か」
つい愚痴ってはみるが、小鴨は気にするでもなく鳥谷を見上げてくる
その眼はまるで小動物の様で、鳥谷が折れてしまったのは直ぐ
そのまま二人は連れ立って大学を後に
「あれコガモ。今日はも授業おわり――?」
途中、小鴨の知人と出会い、会話に脚を止める
その知人らは暫く話をした後、小鴨の後ろに居る鳥谷に気付き
「あ、鳥谷君とどこか行く処だった?」
「はい。今日、卵が安いんです」
ソレを買いに行くのだと問うてくる友人らへと返してやる
どうやらそれが意外だったのか、何度も鳥谷をチラ見する友人達
何か言いたいのだろうかと怪訝な表情をつい浮かべてしまえば
「鳥谷君、コガモの事、宜しく頼むわよ!」
指を突き付けながら言い放つ
一体何を宜しく頼むつもりなのか
分かる筈もなく、鳥谷は更に怪訝な顔だ
「何を、宜しく何でしょうか?」
「さぁ」
「みんなも、一緒にご飯食べたいんでしょうか?」
「多分、違うだろ」
「?」
互いに考えてみても解らず、鳥谷と小鴨は顔を見合わせると
「行くか」
何時までもここに居た処で仕方がない、と歩き出す
暫く歩き、目的のスーパーへと到着
小鴨は籠を持ち、色々買う気満々に中へ
まずは目的としていた卵

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