《MUMEI》 夢に君を見た夢に君を見た。 君は白い服に身を包み湖の上を滑るように歩いていた。僕に気付くと幽かに笑みて手招きをする。蒼白き頬に紅色が灯り、月光の下君の姿が揺らめく。走り寄りて君を求め手を伸ばせば虚しく空を掴む。あぁ、夢幻(ゆめまぼろし)君は何処?背に熱き視線を感じ取れば、君揺らめきて再び僕を誘う。無限白夜、虚無世界にて繰り返さるる僕に勝ち目の無い鬼ごっこ。 しかし迎える終焉の時。 『掴まえた』 僕の手には君の細い手首。君はとても哀しげに微笑んで(まるで泣いているかのようで)僕を突き飛ばした。僕の身体は宙を舞い、白夜、虚無世界を抜けて現(うつつ)に落とされた。 「〇〇〇〇〇」 声に鳴らぬ君の唇を瞳に焼き付け、僕は夢から醒める。そうしてまた君が不在の現を屍として生かされる。現の君は虚無の如く白き檻に囚われ、無数の管に繋がれ冷たき器械に依りて規則正しき音で生かされ続ける。 『馬鹿だね君は、僕なんか助けなくても良かったのに』 1ミリ足りとも動かぬ君を見下ろして、両の手首の白き包帯を眺める。 『君と一緒の所で生きたかったのに…本当にお人好しな、んだ、からっ…あ、ぁぁぁ……ぇっぐっ…』 「君は生きて」 声に鳴らぬ君の唇が動いた気がした。 前へ |次へ |
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