《MUMEI》

なんだか気恥ずかしくなった気もしたが、ハルの「じゃ、取り敢えず歩こうか。」にいつも、冷たいなぁ〜、等と馬鹿にするところを今日は救われた気がしたので、やめた。

此処団子屋からたダッシュで五分、歩いて三十分の所にアカネの家はある。

そして、俺達は屋根の上にいた。

「大丈夫だって。こんくらい跳べるだろ。」

「無理無理無理無理!!」

ハル、アカネ、俺の順に人通りを挟んだ屋根に飛びのった。

落ちることはないと解っているので、特に躊躇なく跳んだ。が、一人だけついて来れていなかった。

「サヤが跳ばないと俺ら進めねーぞ。」

「お、落ちたら人が…!」

「サヤちゃん、レベル何なの?」

ハルが声を張り上げて、更に口の横に手を添える。

「えーと…五十!」

余裕…というか呆れていた気配を解き、サヤを見る。

俺の驚愕の顔を見て、サヤも驚いたようだ。

レベル五十?

始めてからこの短時間で、屋根からの跳び移りすら出来ないこの少女に、矢吹慶一郎はどうしてここまでしたのだろう。

自分が創ったルールを侵してまで。

「せぃぁあ!」

思いきり跳んだサヤは、俺達の更に奥の屋根に着地した。

「ぷぎゃ!」

不時着だ。

「大丈夫かよ。」

そんなやりとりで、ほんの数十秒前の思考は果てしなく薄いものとなった。

しかし、消えない。


消してはいけない思考な気がした。

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