《MUMEI》
――伊藤視点
「どうかしたか?」
裕斗の様子がいきなり変わった。
何だか気のせいかへこんでるみたいな…。
「いえ…何も…」
裕斗は少しだけ笑うと、缶をプシュっと開け、俺にビールを注いできた。
――今時の若い子にしては物腰の柔らかい裕斗。
いつも笑顔を絶やさない…。
なにより挨拶が確り出来て、
監督に演技指導をかなりきつくされても、
確り聞く、素直さがある。
スポンジが水を吸うみたいに、素直にどんどん吸収していくから、出だしより中盤に差し掛かった今、かなり演技が上手くなった。
最近じゃ台本も事前に確り覚えてくる様になったし、
これからも頑張っていけばまだまだ伸びそうな、不思議な感性を感じる。
――見たくれはモデルだけあって多少派手目だが、中身は結構地味な、どちらかといえば内気な男の子だ。
決してでしゃばらず、いつも控え目な発言。
見てるともっと力を抜いて人に接すれば良いのにと、思えて…ならねえ…。
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