《MUMEI》 世話係凜はおもむろにベッドに手を伸ばし、そのまま羽田の方に差し出した。 「え、なに……わっ」 不思議がる羽田の肩で、何かが動いた。 「びっくりした、テラか」 そこには尻尾と翼をパタパタと楽しそうに動かすテラがちょこんと乗っていた。 「わたしがずっと手を置いておくより、テラに乗ってもらってる方が便利がいいでしょう?」 「……まあ、そうね」 羽田は頷き、テラの頭を軽く撫でた。 「お願いだから、勝手にどこか行かないでね」 そう言うと、テラは理解したのか、してないのか首を傾げてみせた。 「いやー、参ったぜ」 突然、バンっとドアを開けながらレッカが入ってきた。 そして、まるで定位置のようにさっき座っていたクッションの上にドカっと座った。 その手には、袋に入れられた長い棒のような物を持っている。 「わりと早かったですね」 「ああ。図体がでかいだけで、意外と弱かった」 「あの、怪我とかは?」 控え目に羽田はレッカに言った。 すると彼は「いや、俺らの攻撃地点はけっこう離れたとこだったから」と笑って答えた。 「そう。よかった」 羽田はそう言いながら、あんな化け物と戦ってきたというのに、笑顔を見せるレッカを見て違和感を感じていた。 やはり、羽田の感覚で物事を考えてはいけない。 凜が言っていた通り、マボロシとの戦いは日常茶飯事なのだろう。 「なんだよ?」 ボーっとレッカを見ながらそんなことを思っていると、眉を寄せてレッカが言った。 「あ、いや、別になんでも……」 「ふーん。って、あ!なんでテラがあんたの肩に?つか、触れんの?」 大袈裟に驚くレッカに凜が簡単に説明してやった。 「マジで?こいつにそんな能力があったとは……」 レッカはまじまじと羽田の肩に乗るテラを見た。 そして、そのまま視線を羽田に移す。 「じゃあ、こいつのことは先生が世話してやりなよ」 「ええ!!」 「だって、先生はこっちの世界に興味あるんだろ?だったらいつでも見れる方がいいじゃん。それにテラだってあんたのこと気に入ってるみたいだし」 レッカは「な?」とテラの頭を軽くポンっと叩いた。 たしかに興味はある。 それは事実だ。 まさかこんな身近で非現実的なことが起こるとは思ってもいなかった。 小説好きな羽田にはたまらない現実だ。 しかし、常に死と隣り合わせのこの世界に深く関わりたくはなかった。 ただ、少しだけ覗いて見ることができれば、それで満足なのだが。 そんな羽田の思いは当然レッカたちに通じるはずもなく、自然と羽田がテラの面倒を見るということで落ち着いてしまった。 前へ |次へ |
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