《MUMEI》

俺の鋭い視線にビクリと身を引いて、瞠目しな
がら俺を見ていた。


ジ「え?」
「弟子だろうと何だろうと誰もがいい仕事が出
来るわけがない。秘密を教えてください。ハイ
いいですよ。そんな簡単に教える店が人気な店
にはなるわけがない。君は秘密を知ってその後
どうする気だ」
ジ「色んな人に作って食べて貰いたいです」
「一つ教えてやる。秘密はレシピだ」
ジ「レシピ?」
「只のオムライスもひと味変えたり、卵は焼き
加減を変えて半熟にしている」
ジ「それ、だけですか?何か特別な事をしてる
のではないのですか?」
「材料はどこでも手に入るし、道具も一般的に
使われている物だ。レシピは見たことがあるだ
ろう?特別な物などなかっただろう」
ジ「!」
「だからと言ってレシピ通りに作っても簡単に
はいかない。技術は作り方じゃない、作る人の
手だ。学んで、作って、失敗して。苦しんで、
悩んで、挑戦する。この店の者も全員そうやっ
て経験を積んで立っているんだ」
ジ「!!……あ、僕は」


やっと気付いて項垂れたジオに俺は直感でこの
ままでは彼は潰れていくと感じた。それは惜し
いと思い、前々から考えていたある企画を彼に
使うことにした。


ジ「知らなかった自分が恥ずかしいです。世間
知らずの僕はきっと何をしてもダメですね」
「そんなことはないぞ。むしろ丁度いい」
ジ「え?」
「ジオは行くところは無いんだな?」
ジ「は、はい」
「知らなければ知ればいい。ジオ・マスカート。
店を出してみないか」
ジ「…………は?」


その時の笑顔は子供のそれと同じだったと後の
ジオは語った。

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