《MUMEI》

「サヤちゃんはさ、なんでゲームに来れたの?」

あ、それだ。

聞きたかったけどなんとなく忘れかけてた事実を的確に質問したため、少し足が止まりかけた。

「なんで、って言うと。招待された感じですかね。」

「「招待?」」

ハルと俺の疑問の声が重なる。

「はい。家に矢吹慶一郎が来て…。」


「「「矢吹慶一郎が家に来たぁ!?」」」


思わず声を荒げる。

家に矢吹慶一郎が来ただと?あの、矢吹慶一郎がわざわざ足を運んでサヤを…俺の妹をこのゲームに連れて来た。

ただの中学生であるサヤに、矢吹は何を期待しているんだろうか。

それは、きっと俺達がいくら頭を抱え込んでも解読不可能の難問だろう。

「お前はそれで、のこのここの世界に来たってのか?」

「うん。」

バチンッ

「あたっ!」

俺のデコピンは見事サヤの額のど真ん中にクリーンヒットした。良い音と共に、不意打ちを喰らったサヤが涙を溜め苦悶の表情を浮かべている。

「ばーか。もっと後先考えて行動しろ。」

いつもとは違う、冗談混じりの無い兄たる態度でサヤを見詰める。

すると、不満そうな顔を額に当てた両手で隠しながらサヤが反発をした。

「だって…ショウ兄を護れると思ったんだもん。」

「な……なんて可愛いの。」

この表情にハルはやられたようだ。まぁ、俺もやられかけたが。

「…ほら、サヤ。ビリにならないよう気を付けろよ?」

先を見ると二つ目の人通りを挟んだ進路。いつもの冗談めかした俺に戻ったのをサヤが確認したらしく、また「う…うるさいな!」なんて言っている。

まずはサヤにこの世界の感覚を染み込ませる事が先決か?

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