《MUMEI》

つい、躊躇してしまう
「……今までの(世界)なら食べていたけれど、アナタは、どうしたい?」
透子からの問う声
坂下は暫く考えた後
「……花にでも、変えてやるか」
そう、呟いた
せめて、自身が生きた証を鮮やかに残してやろう、と
坂下がそう望んだ瞬間
ソコに在ったすべての亡骸たち全てがその身を骨に変え
サラサラとした灰と化す
それは瞬間に花弁へと変わり、散り散りに舞って行った
その様を見やる透子の横顔
坂下には流せない涙が、次々に伝い始める
「……私には、嘆いてやる資格なんて、ないのに――」
涙を手の甲で拭いながら
透子は押し殺したような声で何度もソレを呟く
何を言ってやる事も出来ない坂下
その顔を覗き込んでみれば
その頬に、ぼんやりと何かが浮かび始めた
目の下に、13の痣
それは透子がまさにソレだという印
何故透子の頬にそれがあるのか、僅かに驚いた坂下へ
透子は壊れてしまいそうな程に脆い笑みを浮かべて見せながら
「……私は、逃げたの。13である自分の役目から」
逃げ続けて、その内に忘れられた
自身が餌として必要されなくなり、生きながらえて
同じ13の葬儀を、何度見てきたことか
「……耐えられなかった。でも、私には死ぬ勇気はなかった」
あの施設に入れられ、自分が死ぬ事への必要性を懇々と諭された
だが、いくら聞かされても納得などできるはずもなく
一人、その施設から逃げ出してしまったのだと
「ごめん、なさい。本当に、ごめんなさい!」
その場に膝を崩し、透子は声を上げ泣き崩れる
振り逝く花弁を胸に抱き、何度も謝罪の言葉を呟いていた
「……もういい。もう、誰もお前を責めないから」
小刻みに身体を震わせる透子を背後から抱きしめてやりながら
何度もそう言い聞かせてやる
何故、世界はこれ程まで人に残酷になれるのだろう
泣き崩れる透子を背後から抱きしめてやりながら
暫くそのまま、動くことが出来なかったのだった……

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