《MUMEI》

全てを、委ねられる
心も、そして身体も
「ロイド」
まるで壊れモノに触るかの様な触れ方
それがもどかしく、小野坂はロイドの名前を呼びながら唇を重ねる
触れあうのは、まずそこから
互いの境が無くなってしまいそうになる程に熱を共有する
漸く唇が離れたと思えば、小野坂の唾液が細く糸を引いた
まるでそれが、離れていくのを惜しむかの様に
「……嫌だ」
離れてしまったソコがひどく冷たい
まだここに、自分の傍に在ってほしいと、小野坂は縋る様にロイドを掻き抱いていた
「……良。あまり俺を煽らないで下さい」
自制が効かなくなる、と苦笑を浮かべるロイド
躊躇しながらも小野坂を抱いて返してくる
「どうして、欲しいですか?」
出来るだけ、小野坂の意にそぐう様にしてやろうと伺いを立てる
そう言いながら顔を覗き込ませてくるロイドへ
小野坂は壊れてしまいそうな程に脆い笑みを浮かべながら
「……お前の好きにって、言っただろ」
そうして、貰いたいのだと小野坂
ロイドの手を取ると、自身の身体へと導いてやる
「……心臓の音が早い」
やはりまだ怖いのだろうか
ロイドの手が小野坂の身体の中心に触れれば触れるほど
その身体の強張りがひどくなっていき、つい手を止めてしまう
「止めなくて、いい」
大丈夫だから、と小野坂は離れて行こうとするロイドの手を引き留める
優しすぎるのも、もどかしいものだと小野坂が身を捩ると
ロイドが小野坂の衣服をゆるり乱し始めた
露わになったその素肌へと触れてやり、身体の奥にある熱を引き出してやる
「ロ、イド……っ!」
「良、ごめんなさい。俺は、アナタとその熱を共有する事は出来ないけれど」
傍に居るから、と小野坂をまた抱きしめながら
その唇を塞いでいた
「……っ」
深く、浅くを繰り返し
身体の強張りが僅かに緩んだその隙を借り
ロイドは触れているその手で小野坂を終わりまで導いてやっていた
「大丈夫ですか?」
尚も気を使ってくるロイド
ぼんやりと霞みかかったままの意識でロイドの方を見やれば
小野坂の残滓に濡れたままのその手が見えた
己が欲に負け放ってしまったそれ
小野坂は我に返り、その手を服の裾で拭ってやる
「……ごめん。俺――」
「良」
謝ってくる小野坂のその唇を遮る様に食む
呼吸すら奪う様なソレに、先の余韻がまだ残る小野坂の身体は容易にまた熱を帯びる
ソレを察したロイドが小野坂の更に中心へと触れた
ヒトと触れあうのは決して怖い事などではないのだと、教えてやるかの様に
「……お前の手、優しくて好きだ」
逆らえない感覚に耐えるかのようにロイドへと縋りつけば
ロイドは笑みを浮かべて見せる
否、この機械がヒトであったのなら
涙を流していたかもしれないと思える程、その笑みは脆いものだった
「……泣くなよ。ロイド」
「俺は、泣く事なんて出来ませんよ」
「でも、泣いてくれてるんだろ?」
心で、自分の為に
そう思わずにはいられず、ロイドの身体を抱き返す
この心優しい機械の全てを受け入れたい、と
小野坂はロイドの着衣に手を掛けた
その手を止めるでもなく、ロイドは小野坂のしたい様にさせてやる
「……お前と俺、何が違うんだろうな」
露わになったロイドの身体はヒトのソレと寸分違わず
小野坂はその胸元へと耳を押し当てた
ソコに心臓の音はなく、無機質な機械音がその音で鳴る
それがどうしてこれほどまでに心地よく聞こえるのだろう
もっともっと、この音を近くで聞きたいと
小野坂はロイドの身体を強く抱きしめる
「でもこれは、この音はお前が生きてる音だ」
例え自身のソレと違ったとしても
この機械を間近に感じられるこの音は小野坂を安堵させた
「……良。もう、喋らないでください」
「ロイド?」
何故、と問おうとした小野坂の唇にロイドの指先が触れる
「これ以上は、俺の理性が吹っ飛びます」
此処に来て未だ躊躇するロイド
理性の箍など、外してしまえばいい
今、小野坂はソレを望んでいるのに
「ロイド。命令、だ。……最後まで、しろ」
卑怯な物言い
(命令)と言ってしまえばソレに従順だろうこの機械は決して逆らえない
否、その言葉を使ってでも、この機械がどうしても欲しかったのだ
「本当に、アナタは――!」

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