《MUMEI》

部屋にコーヒーメーカーの滴る音が響く。

「みんな、こんな風に家を持ってるの?」

若干の馴染みなさはあるが、敬語は段々と取れてきたサヤがアカネの家のリビングを物珍しそうに見渡しながら言った。

「半分くらいだよ。まぁ、多分これからは全員持つだろうけど。」

「全員じゃないわよ、きっと。」

コーヒーを入れながら答えたアカネに、ハルが直ぐ様補足した。

「暫くはレベル上げに勤しむ毎日を過ごす人も居る筈よ。ジェル無いと家買えないし、単純にレベル上げしたいだろうし。」

手元には、例の如く砂糖とミルクの準備が万端だ。

「…これから、どう、する……?」

メグミがこそこそとコーヒーカップの中から顔を出す。これでも、当初よりは随分とマシになった…と、思う。

「取り敢えず、レベル上げよね。安定って言ったら百超えだから、三ヶ月無いくらい?」

その期間の長さの理由は、サヤのレベルの低さだろう。

まあ、レベル一からじゃないだけいいが。

「…私完全にお荷物ですよね。」

「ばーか。気にすんな。昼は俺居られないけど、たまになら見てやるから。」

明らかにガクッとした空気を感じ、なんとなく声を掛けた。

「昼は居られない?」

いつの間にかコーヒーを入れ終わったアカネがそれを配りながら俺を見た。

「あぁ。アイと俺は昼抜ける。」

俺の前に出された香ばしいコーヒーをゆっくり手に取り口に運ぶ。

舌の上に猫舌な人なら火傷をしそうな程の熱さが滲んでくる。香ばしさが鼻に抜け、苦味のせいか落ち着く。

「…特訓でしょ。」

ハルがじろりと俺に目を移す。砂糖を持った手がコーヒーの上で止まっている。

「……バレたか。」

「バレたかじゃないわよ。また何処か危険な所に行こうとしてるの?」

冗談混じりに苛ついている風に見えるが、端々に心配している雰囲気が感じ取れる。

本当に有難い。

「…多少な。でも、そういう所でレベル上げをしないと、俺は強くなれないから。」

何もしないで何も護れないなんて、馬鹿げてる。

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