《MUMEI》

そして精肉の売り場にて特売のひき肉を見つけると
「……キーマカレー、食べたいです」
コガモが小さく呟いた
そのささやかな自己主張に、鳥谷はフッと肩を揺らすと
返事替わりに小鴨の頭を掻き乱す
「なら、帰って作らねぇと、だな」
手伝えよ、と片目を閉じて笑んで見せれば
小鴨は照れた様な表情で俯き、それから頷いていた
それから二人連れ立って帰ってきたのはとあるアパート
実はこの二人、具全にも部屋が隣同士で
つくづく変な縁があるもんだと鳥谷は肩を揺らしてしまう
「と、鳥谷君!!」
自分の部屋の前に立って居た小鴨がどうしたのか突然に声を上げた
行き成りのソレに何事かと驚いてやれば
「……鍵を、家の中に忘れました」
「は?」
「鍵です!これじゃ、家の中に入れません!」
「はぁ!?」
何を言い出すのかと鳥谷は怪訝な顔をして見せたが
能々考えてみればこのアパート
贅沢な事に全室オートロックで
室内に鍵を忘れてしまえば当然、鍵は開かなくなってしまうのだった
「……どうすんだよ?」
「どう、しましょう」
「俺に聞かれてもな……」
このままではどうしようもない
何とかならないものかと、鳥谷はアパートを管理している不動産屋に電話を掛けてみる
繋がったらしいが、電話を切った鳥谷はどうしてか苦い顔だ
「鳥谷君?」
どうしたのかと小鴨が顔を覗き込ませれば
「……早くても、明日の朝になるって」
聞いたままを小鴨へと伝えてやる
一瞬間を開けた後、コガモが俄かに困った様な顔をして見せた
「どう、しましょう……」
流石に慌て始め、右往左往し始める小鴨
その様を暫く眺めていた鳥谷が頭に手を置いてソレを止めてやる
「落ち着け、コガモ」
「でも、鳥谷君……」
今日泊まるところがないのだとの小鴨へ
鳥谷は深く溜息を吐き
「……俺んち、泊まるか?」
「え?」
「お前が、嫌でなければの話だけど」
どうする?と小鴨へと問うてやった
小鴨は悩んでいた様だがすぐに小さく頷いて返すと
鳥谷を見上げ、申し訳なさそうな表情だ
「……別に迷惑とか思ってねぇから。入れば?」
すっかり項垂れてしまった小鴨へと自宅の戸を開き招き入れてやる
お邪魔します、と丁寧に頭を下げ、小鴨は中へ
「俺の悪いけど、コレ」
入るなり鳥谷が放って寄越したのはスウェット
これを一体どうするのか
小鴨が小首を傾げて見せれば
「……寝巻。これしかなくて悪いけど」
洗ってあるから、と返してくる
鳥谷なりに気を使ってくれているのだと小鴨は嬉しくなり
受け取ったソレを抱き締めながら、ありがとうと鳥谷へと満面の笑みだ
「今から、メシ作るから。その間に入って来いよ」
「でも、お手伝いは……」
「いいよ。簡単なもんだし」
言い聞かせてやる様に頭をなでてやれば
漸く小鴨は頷き、小走りに風呂場へ
ソレを確認すると、鳥谷はカレーを作り始める
キーマカレーとの注文通りにソレを作ってやり
食事の支度も殆ど終えてしまった鳥谷は床に腰を降ろすと
辺りに散らかっている雑誌の一つを手に取った
別段読みたい訳ではなかったが暇つぶしにと適当にページを捲っていく鳥谷
暫く読み進めた頃
「と、鳥谷君!」
突然い小鴨が浴室から飛び出してきた
何事かと問おうとして、その小鴨の姿に鳥谷は言ってやろうとした言の葉を忘れてしまう
バスタオル一枚身体に巻いただけの姿
なんという恰好をしているのか
鳥谷は慌てて近くに放ってあった自身のシャツを羽織らせてやりながら
「……で?一体どうした?」
その姿で出て来るに至った理由を問うてやる
暫くして漸く少しばかり落ち着いたらしい小鴨が
一息つき、そしてその理由を離し始めた
「お湯が、出ません!」
「はぁ?」
給湯器が壊れていた覚えなどない
何故そんな事になっているのか、様子を見てみれば
「……」
その理由は直ぐに知れた
その電源が入っていないのだ
鳥谷はフッと肩を揺らすと、ソレを指差して見る
無言のソレに小鴨は瞬間解らなかった様だったが
すぐにその事実に気が付いた
「も一回あったまって来い。な」
バツが悪そうに顔を伏せてしまった小鴨へとそう言ってやれば
小さく頷き、浴室へと戻っていった
やれやれと溜息を吐いてしまった同時

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