《MUMEI》

「その意見には賛同しかねます。」

アイが俺の耳元を抜け、ハルの前に置かれたすっかり甘いコーヒーの隣にちょこんと座り淡々と告げた。

そして、目を見開く俺も物怖じせずにこう続けたのだ。

「自由に生きろと教えてくれたのは、カケル様です。」

「…いや………そう…だが…。」


言葉が続かない。


俺としたことが、言葉を失ってたじたじと目を泳がせている。

現在、俺を見つめるアイとは正反対の状態である。

「私は、カケル様が心配です。もし仮に致命傷を負ったとして、私には何も出来ない。パーティメンバーに伝えられても、すぐに来れるとは限らない。」

いつでも従順なオプションは崩さなかったアイに、アルトと一時何処かへ消えたあの日よりも大きな変化が起きている。

主人の為のプログラムが、主人に個人の意見を述べ、更には主人に反抗をした。

思えば、驚かされるのは大体アイだったっけか。

「…あ、いや……その通りだ。」

驚く俺と同様に、この事態を珍しいと認識している二人はアイを見ている。

が、その二人の妖精等(と、一人)は特に何とも思っていないらしく、アルトは変わらずハルの傍に、メグミもコーヒーカップの中に。

「もっと自覚して下さい。みんな、カケル様が大事なんです。カケル様がみんなをそう思うように。」

「それは同意。というか、アイちゃんの意見に全面賛成。」

アカネのなんとも心情の読み取れない声が続く。

「ええ。それに、カケルは忘れてるわ。」

「?」

ハルがカッコつける時の顔をしたので、仕方なく聞いてやる。

「私達、強いのよ。」

が、カッコつけて言った言葉は百も招致だったので、「あぁ。」とだけ言い、再び苦味のコーヒーを啜った。

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