《MUMEI》
溶け始める氷
   〜麗羅視点〜


私は、教室から出ると走り出した。


蝶野が私の後を追って走ってくるのが足音で分かる。


「麗羅……!ねぇ待って!」


私は、振り向かない。


いや、振り向けないっと言った方が正しいかもしれない。



"存在がウザいんだよ"



頭の中で何回もこの言葉が、繰り返されていた。




"あんたなんか……なければ良かった"


過去に言われた言葉。



胸を締め付けるだけの過去の記憶、心の奥底に沈めて蓋をして、思い出さないようにしていたのに……。


あの時の感情が、流れ出して広がっていく。


時間が経っても褪せない痛み。



パシッ――


過去に呑まれていると、蝶野が私の腕を掴んだので立ち止まる。


顔を見られないように蝶野から顔を逸らす。


しかし、私の頬を伝って落ちる液体が見えたのか、蝶野は遠慮がちに質問を投げかける。


「麗羅……泣いてるの?」



私の目からは幾筋もの水が通った跡があった。



私、泣いてるの……?



今まで泣いたことなんてなかったのに。


どんなに酷いことを言われた時も、大切な人が目の前から去っていった時でさえも……



蝶野は、私の手を引っ張り歩いていく。


途中で誰かにメールを送ってたみたい。




着いたところは屋上だった。


晴れ渡った空に、真っ白な雲が浮かんでいてとても綺麗な景色だった。


春の風は優しく私の頬を撫で、私の目から出たものを乾かしていく。


蝶野は私の手を両手で包み込み、真剣な顔をして私に語りかける。


「さっきの子達が言ったことは、気にしない方がいいよ。


それと栄実は麗羅のこと好きだよ!


これからも一緒に居たいと思ってる」


私は、その言葉を聞くと自然とさっき風によって乾かされたものが、また目から流れるのを感じた。



「あ…あり……がと」


自然に出た言葉を聞くと蝶野は顔を綻ばせる。




あの時から心は凍ってしまって動かないと思っていたのに……。


動かされまいとトゲのある態度で、人を寄せ付けないようにしてたのに。


蝶野といると、だんだん氷が溶けていくようなそんな感じがする……。


また人を信用してもいいかなって思える。


私の心は、蝶野達と出会ったことによって大きく動いていく。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫