《MUMEI》

 「それで、良。セラピノイドとの生活は順調か?」
翌日、丁度昼食時に両親が小野坂を訪ねてきた
二人向かい合い穏やかに食事する風景を見、そんな事を問うてくる
見ればわかるだろうと、その問いには敢えて答えず箸を進める
「順調、の様だな。それは何よりだ」
満足そうに笑う声を上げる父親へ
小野坂は横目で睨む様な視線を向けながらも、やはり何も言う事もない
「……聞きたい事は、それだけか?」
味噌汁を飲み干し、態々音を立てて卓上へと置くと漸く返す声
そして徐に立ち上がる事をすると、ゆるり父親の方へと歩みより
「モニター、してやったんだから、何か報酬寄越せよ。親父」
「報酬?珍しいな。お前がそんなものを要求するなんて」
何が欲しいのか、と笑みを浮かべて見せる父親へ
小野坂は何の表情も浮かべる事無く
いつの間にか傍らに立って居たロイドの腕を取ると
「報酬は、コイツ。俺のモンにしても、いいだろ?」
引き寄せ、ソレを主張してやる
父親は浮かべた笑みはそのまま、更に肩を揺らすと
「……お前が、何かの存在を求める様になるとはな」
効果はあった様だとロイドへと向いて直った
「と、言うわけだ。ロイド、これからも、宜しく頼む」
それだけを伝えると、父親は母親を連れ立ってその場を後に
去り際に父親は態々脚を止め、振り返ると
「……良かったな」
それだけを言い、そのまま帰宅の途に就いた
一体、何が良かったのか
父親は必要以上に語る事はしなかったが、小野坂は何となくわかった様な気がした
「良?どうかしましたか?」
両親が返った後を暫く眺めていた小野坂へ
ロイドが軽く肩をたたいてやれば
振り向きながら、小野坂はロイドへと笑みを浮かべてみせる
「……本当、良かったよ」
「良?」
何が良かったのか、ロイドが小野坂の顔を覗き込んでみれば
その動きに逆らうことなく、小野坂はロイドへにキスをしていた
「――!?」
驚き、口元を抑えるロイドへ
小野坂は更に笑みを深く声をあげて笑い始めながら
「俺の処に来てくれて、ありがとな。ロイド」
ロイドを抱き締めてやる
この機械は、最早(癒す)ためだけのものではない
自分に、自分にだけ、惜しみない愛情をくれるモノだから
(セラピノイド)ではなく(ラブマシーン)
自分だけはそう呼んでやろうと
小野坂はロイドを更に強く抱き締めながら、そんな事を密かに考えていたのだった……

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