《MUMEI》
最終日
 ユウゴは物音に目を覚ました。
どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい。
「あ、起きた」
そう言ったのは、さっきどこかへ走って行ったはずのユキナだ。
「あれ、いつ戻った?」
ムクリと起き上がりながらユウゴは言った。

時刻は日の出前の早朝。
どうやら二時間ほど眠ったらしい。

 ベッドにはサトシが青白い顔で眠っていた。
その細い背中に白い包帯が不器用に巻かれてあった。
「一時間くらい前。けどよく寝れるね。こんな状況で。あいつらが来たらどうすんの?」
「しょうがねえだろ。気付いたら寝てたんだから。おまえこそ、どこ行ってたんだよ?」
ユキナは床に置いた救急箱を手に取った。
「これ、探しに行ってたの。この家にはなくてさ。五軒目でようやく見つけたよ」
「……大丈夫かよ。見つからなかっただろうな?」
「うん、平気だと思うよ。何人か警備隊とすれ違ったけど、うまく隠れたし」
思い出すようにユキナは視線を天井に向けながら言った。
「なら、いいけど」
ユウゴは言いながら立ち上がった。
そして、サトシを見下ろす。
「怪我、どんな具合だ?」
「うん。なんか、うまく急所は外れてるみたい。けど、無理に動くと出血がひどくなるかも」
「寝てれば大丈夫、か?」
「多分、このゲーム終了まではもつと思う」
ユウゴはサトシを見つめながら考えた。


 今のサトシを連れ歩くのはサトシにとっても、ユウゴたちにとってもいい結果は生まないだろう。
幸い、ここは奴らに見つかっていない。
ならば、サトシをここに置き、ユウゴとユキナが奴らを引き付けながら逃げる方が得策か。

そう考えていると、眠っていたはずのサトシが口を開いた。
「僕、ここにいるから」
「え……」
サトシはうっすら目を開けた。
「だから、兄ちゃんたちは二人で逃げなよ」
ユキナは意見を求めるようにユウゴを見ている。
 ユウゴはしばらくサトシを見つめ、やがて頷いた。
「わかった。今日の午前十時に終了のサイレンが鳴る。それまで、なんとか頑張れよ。警備隊は俺たちに任せろ」
ユウゴが言うと、サトシは力なく笑った。
「ま、なんとか頑張るよ」
「水、ここに置いとくからね」
ユキナはベッドの枕元にペットボトルを置いた。


「それじゃあ、最終日。しぶとく生き延びてやろうぜ」
「うん……絶対に、ね」
 ユウゴとユキナはそう言うと、部屋から出て行こうとドアノブに手をかけた。
「兄ちゃん、姉ちゃん」
サトシの声に二人は立ち止まり、振り返る。

「また、会おう」

苦しげな表情の中にニヤッと笑みを浮かべ、サトシは言った。
ユウゴとユキナは力強く頷いた。
そして、そのまま部屋を後にしたのだった。

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