《MUMEI》 嫌だ、怖い その恐怖に耐えかね何とか自力で目を覚まし、弾かれたように身を起こせば 全身に嫌な汗を感じる 「……何なの、もう」 段々と、腹が立ってきた 何故、どうして自分ばかりがこんな目に合わなければならないのか 考えれば考えるほどに、腹ばかりが立つ 「誰か説明しなさいよぉ!!」 つい独り言に怒鳴ってしまった斎藤 返答などある筈がないのだが 「随分と、楽しそうだね」 何故か、返答があった 驚き辺りを見回せば斎藤の目の前、歪んだ笑みがすぐそここにあった 「――!?」 突然のソレに斎藤は眼を見開く 何故此処に居るのかと 「だって、僕は君の中の悪夢に、ずっといたんだから」 「……私の、夢?」 「そう。だから今までも、これからも、君と僕はいつも一緒なんだよ」 ニヤリ歪んだ笑みを更に浮かべる相手 斎藤へと触れようと手を伸ばし、触れようとした寸前 それを遮るかの様に、黒い綿菓子の様な何かが現れた これは何なのか 手の平に乗ってくるソレを眺め見てみれば、それは 黒い、小さな羊だった 「ソコに居るの?ロン」 言いながら相手が見やったのは斎藤の背後 振り返ってみればソコに 青年の姿ではない、その男が居た 何時の間にここに居たのか 問い質してやるより先に、斎藤は男の腕に抱きすくめられる 「な、何!?」 突然のソレに、何とかその腕を振り払おうとする斎藤 だが相手の腕はびくともしない 「……よく私の居場所がわかったな。メリー」 「匂いが、したんだよ。君のその甘ったるくて、嫌な匂いが」 あからさまに嫌な顔をする相手に ロンと呼ばれたその男は微かに肩を揺らしながら相手へと手を伸ばし 頬へと撫でる様に触れてやりながら 「お前を放置していてはいずれ人の夢は消える。それはあってはならない事だ」 「……偽善だね。人の夢なんて、その内全部悪夢に変わるのに」 相手は吐き捨てる様に呟くと、ロンの腕を払い除ける そして斎藤へと向いて直ると 「ま、今日はこれくらいにしておいてあげるよ」 またね、と満面の笑みを浮かべ、相手はその場から消えていた それは瞬きするように一瞬で その姿が見えなくなり、斎藤は一気に脱力したのかその場へと座り込んでしまう 「何で、私なの?どうして……」 「それは、お前の夢がとてもあやふやな場所にあるからだ」 「……どういう事?」 さっぱり意味が解らずロンの方を見てしまえば 何故か呆れたような表情をロンは浮かべ その手の平へ、あの小さな黒い羊を出していた 「な、何?くすぐったい」 その羊は斎藤を見るなりすり寄っていき 暫くじゃれると離れていき、ロンの手の平へと戻っていく 「……相当だな」 鼻先をロンの頬へと摺り寄せる羊 ソレで一体何が解るというのか 分かる筈もなく、斎藤は首を傾げロンを見やる 「……お前、これほどの悪夢を抱え込んでいてよく今まで無事だったな」 「……?」 「よほど鈍感なのか、普通の人間だったら当の昔に発狂しているぞ」 深々溜息を吐きながら、ロンが黒羊をまた斎藤の肩の上へ また鼻先を摺り寄せてきた瞬間 斎藤の目の奥に、様々なものが見え始めた その全てが何かは解らない 唯解る事は、ドロドロとした黒い何かと言う事 「……何、コレ……」 段々と広がっていく黒に怯え、問う事をしてしまえば ソレに応える様に、黒い羊が目の前へと現れた そして斎藤へと身体を摺り寄せると、黒いそれの方へと向き直り 突然、その口を大きく広げた 食べられてしまう、と反射的に眼を閉じてしまう斎藤 だが次の瞬間、その黒いものは消え、跡形もなくなった どういう事なのか、ロンの方を見上げ問う様な視線 「もう、見えなくなったろう?」 言われて、眼の奥の黒がすっかり消えてしまっている事に気付く ホッと胸を撫で下ろせば、斎藤はその場に座り込んでしまった 「……っ」 「どうした?」 黙り込んでしまった斎藤のかをロンが覗き込む そして、目が合うなりだった 「……もう、嫌だぁ!すっごく怖い!」 前へ |次へ |
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