《MUMEI》

「えっちょ……先輩今電話が来ちゃってて…!」

「二分。」

「先輩無理だって……はい、もしもし、その件でしたら昨日の情報が全てで……。」

会社中がオンラインゲームの監禁事件についての対応に回されている。

たった一人の男がやったと思われるこのテロは、既に海外でも発表されているらしい。

そんなに大きくではないが、すぐに大々的に発表されるだろうな。

人を縫う様に狭い通路を歩き、自分の机に急ぐ。

「上着は………一応持ってくか。」

独り言を呟き、荷物をまとめる。

荷物と言っても小さな鞄一つにまとまる程度の物だ。


「湊川、二分経ったわよ。」

部屋を出る際にしっかり忠告はしておく。

「はい、そういう事で……はい、失礼します。」

電話も終わった様なので、ろくに荷物も持たずに私の元にダッシュするだろう。

その理由は、単に私を怒らせたくないからだ。

「ちょっとくらい待ってくれてもいいじゃないすか。」

追い付いた湊川の息は多少荒くなっていた。

部屋のドアノブに手を掛け、ほとんど力を入れずに回し、迷いもなく歩を進める。

「神奈川の横須賀総合病院まで行って。あ、あと途中でスタバ寄って。」

急がせた割に、自分でも勝手だなと思う。

「な………俺キャラメルフラペチーノがいいです。」

「奢る訳ないでしょ馬鹿。」

こんな会話を割と好きだったりする。

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