《MUMEI》

「アイスカフェラテと、キャラメルフラペチーノ。」

言うのとほぼ同時に金を出す。釣りはない。

計算済だ。

「かしこまりました。少々お待ちください。」

要望通りのスタバに止まって後輩の俺に金を渡して買わせるのは、割にいつもの事だった。

店内の香ばしい豆の匂いに包まれていると、此処に長居したくなるのは思うつぼなのだろう。

カウンターらしきところに手を掛け、腕時計を見る。

昼に向こうに着くには、十分過ぎる時間だ。

「お待たせ致しましたー。」

流れ作業の様に俺に商品を手渡し、奥へと遠退く。

溢す事のない様に、いつも以上に慎重に速く歩く。

車に着いて、片手で二つを持ち、気を付けて扉を開く。

「先輩。」

「ん、ありがとう。」

小さく薄いノートパソコンを膝の上に乗せ、軽い音を素早くたてながら、目も合わせなければ手も出さずにそう言った。


「じゃなくて!」

少し大きな声になったが、やはりこちらを見ない。

「いい加減教えて下さいよ。なんで横須賀の病院に行くのか。」

俺は真剣に切実に質問しているというのに、今度は目も合わせずに、眉間にしわを寄せた。

「行けば判るって言ってんでしょう。」

「今聞きたいんですよ。じゃないとこっからもう車出しませんよ!先輩免許持ってないんだから。」

我ながら阿呆な会話だと思うが、昔から気になったことはすぐに聞かないと気が済まないのだ。

まぁ、それは自分でも記者向きの性格であると思うが。

「じゃあ出さなくて結構。車を出そうが出さまいが、横須賀に行くの。」

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