《MUMEI》

 「樹、こんな所で寝てたら風邪ひいちゃうよ」
僅かに身体を揺さぶられる振動に、戸河内はゆるり目を覚ます
寝起き故にぼんやりとする頭と視界
その最中目の前に見えるのは藤本の顔
間近すぎるその距離に、戸河内はその眼を一気に覚醒させる
「おはよ。ご飯出来たけど、食べれる?」
藤本はさして気にしてなどいないのか顔は更に近付き
迫ってくるそれに、戸河内は慌てて頷いて返していた
「良かった。じゃ、こちらへどうぞ」
手を引かれ、居間へと入れば
ソコに在る卓の上には純和風な食事が様々様々並ぶ
ふわふわと美味しそうな卵焼き、味噌汁そしてご飯
それらを前にするなり、戸河内の腹が空腹を訴え始めた
鳴ってしまった腹の虫に、恥ずかしいと顔を伏せてしまえば
藤本は穏やかに笑みを浮かべながらご飯の入った茶碗を渡してきた
「沢山あるから、いっぱい食べて」
同時に箸も渡され、そして二人両手を合わせ食べ始める
談笑しながらの朝食は穏やかで
戸河内は無意識に藤本の顔を眺めてしまいながら
ずっと笑っていてくれればいいのに
そうしてやることが出来ない自分に若干の苛立ちを覚えながら
戸河内は藤本から視線を逸らし、そのまま朝食を食べ進めたのだった……

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