《MUMEI》

「じゃあ、俺本当に出しませんからね。良いんですか?先輩免許持ってないですよね。」

畳み掛ける様に湊川が声を張り上げる。

やれやれ、相も変わらずに短気だな。

「湊川。この世界は狭い割にはよく出来てるんだ。だからどうにでも行けるんだよね、電車でも何でも使ってさ。」

この言葉に湊川は一瞬完全に動きが止まり、皮肉の一つでも言いたいのに返す言葉もありません、という解りやすい顔をした。

記者としては有るまじき行為である。

「……着いたら必ず…ですよ。」

不機嫌ながらも運転席、つまり私の隣に座り、ドリンクホルダーに買ってこさせたそれぞれの飲み物を入れた。

まぁ、どんなに罵倒しても今のコイツは私の下に付いて来ただろうが。

「ほーいっと。かーんせい。」

作成していたなんやかんやがまとまり、一気に疲れを感じる(主に肩に)。

と、そこで目の前の香ばしいカフェラテに気が付く。

「ったく。ナビ出さないとだ…。」

なんて湊川の小言を耳に入れず、この香りに思わず無意識に手を伸ばす。

滑らかに口許へ持っていき、喉に流し込むと、慣れ親しんだ旨みと少しの苦み、適度な甘味が広がった。

渇いていた喉にこの冷たさはじんと馴染む。

「取り敢えず高速乗ります。」

「よろしく。」

車の事は一から何も知らない私なので、走行方法は任せっきりなのはいつもの事だ。

そこで、ふと、いつもの沈黙とはまた違う意図的な静寂が訪れていることに気が付いた。

意識を隣に集中するが、此方を見ている様子はない。

「先輩。」

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