《MUMEI》 「……見事に、ぶり返しちゃったね」 翌日、店へと出向いてみれば戸にはcloseの札 何事だろうと自宅である二階の戸を叩いてみれば 体調が最悪だと一目見て分かる有様の藤本が戸河内を出迎えた 昨日雨に濡れてしまったせいだ、と 戸河内は自分に責を感じ看病を申し出た 「何か、食べれる?薬飲む前に何か飲まないと」 「あんまり、欲しくない」 「それでも。ゼリーとかは?それなら食べれるんじゃない?」 何とか食べられそうなものを考える戸河内 それならば食べられそうだと頷いた藤本を見 買ってくるからと踵を返し、走る様に出掛けていった その背を見送って一人 「……花に水、あげないと」 不意にそんな事を思い出し、藤本は覚束ない脚どりで店へ 何とか全ての花に水を与え 戸河内が戻ってくる前に部屋に戻ろうとした、次の瞬間 視界がぐにゃり歪み始めた 立って居られないほどの眩暈に、藤本は立って居られなくなり倒れこんでしまう このままで居てはいけない、そう思いはするものの 動いてはくれない身体に諦めてしまっていた そのまま寝に入ってしまいそうになった丁度その時 「……愛美!」 戸河内が藤本の名前を叫びながら店の方へと飛び込んできた 「何してんの!熱あるんだよ!!」 つい叱ってしまい、戸河内は藤本を取り敢えず起こしてやろうと腕を取る 引っ張ってやれば立ち上がってくれた藤本 早く部屋へ戻る様にと促してやれば だが藤本は戻る事はせず 身を翻すと、戸河内の身体を掻く様に抱いてきた 「……まな」 「中、オジさん。いつの間にかこんなに弱くなっちゃった。どうしたらいいんだろ……」 また、(中)の名を呼ぶ この男は何時になっても自分の方を見てはくれない 自分を通り越して常に(中)を追っている (中)を想ったままでもいい、いいからせめて 「……私は、(中)じゃない!」 自分を自分として見て欲しい 藤本のシャツを強く掴み上げ、睨む様に見上げてやる 睨んでいる、つもりだった 段々とその視界が涙に滲んで行くのが解ったが どうにも止められなかった もう、無く声だって堪えてなどやらない 沢山困ってしまえばいい、と戸河内は声を上げ泣き出してしまう 子供の様に泣き出してしまって戸河内に 漸く藤本ははっきりと意識を取り戻していた 「樹、ごめん。本当、ごめん……!」 何度、戸河内を(中)として見てきたのだろう その都度、戸河内は傷ついていたのだ その罪悪感に今更に駆られ 藤本は何度も謝罪の言葉を口にする 「(ごめん)禁止って言った」 「……ごめん」 「私は!!」 藤本の声をかき消すように 強く怒鳴ると戸河内は両の手を藤本の頬へと宛がい 自身の方へと引き寄せながら 「謝ってほしい訳じゃない!唯、私は!」 (今)を見て、(今)を生きて欲しいだけだと訴える どうすれば藤本に伝わるのだろうか ソレをうまく言葉に出来ない事が酷くもどかしい 「……馬鹿、馬鹿ぁ」 この感情を一体誰にぶつければいいのだろう 藤本に、それとも(中)にだろうか 否、どちらにもなのかもしれない 藤本と対峙している事が辛くなってしまったのか 戸河内は身を翻し外へと飛び出す 慌てて呼び止める藤本の声が聞こえた気がしたが 止まってやる事はしなかった 「樹、戻って!!」 一際怒鳴る様な藤本の声が聞こえその声に脚を止めてしまう戸河内 ハッと気づけばソコは 赤信号に変わったばかりの交差点 当然有る、車の往来、そして鳴り響くクラクション その耳を裂く様な音に 轢かれてしまう、そう思うのに身体は固まって動いてはくれない どうしようもなく、目を閉じてしまえば 「樹!!」 腕を、強く引かれた そのまま倒れこむ様に歩道へと戻された戸河内 そこに、藤本が居た 「……びっくりさせないでよ。オジさん、心臓止まるかと思った」 「ま、なみ……」 「ごめんね、樹。俺、樹にいっぱい酷い事してた」 戸河内に常に(中)の面影を重ね その存在が無い事の寂しさを癒していた 本当に、それがどれほど戸河内を傷付けてきたのだろう、と 藤本の表情がくしゃりと歪む 「でも、もう止めないと。中にも、樹にも申し訳ないよ」 ね、と笑みを浮かべる藤本 前へ |次へ |
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