《MUMEI》

「成るべく早く帰るから。今日の夕飯頼むな」
二、三度頭の上で手を弾ませてやり、互いの教室へ
小鴨がちゃんと教室方向に向かって歩き出したその背を見送り
鳥谷鳥谷も踵を返す
「とーりーたーにー」
振り返った瞬間、間近にあった友人らの顔
行き成りのソレに鳥谷は驚き、何歩か後ろに戦いてしまっていた
「何だよ?」
「お前さ、今のふわふわした空気何?新婚さん?もしかして俺らに見せつけてる?」
「はぁ?」
何を言い出すのか
つい怪訝な表情を浮かべて向けてしまえば
「俺らだって小鴨ちゃんと仲良くしたいのに。何でお前ばっかり……」
「そうだぞ、トリ!小鴨ちゃんを独り占めすんな!」
様々な事を言われ、その全てがどうにも釈然としない
未だに文句ばかり吐く友人らを適当にあしらいながら改めて歩き出す
「おい、トリ!ちょっと待てよ!」
その後を追ってくる友人ら
まだ何かあるのかと一応は脚を止めてやれば
「次の休みさ、皆で遊園地行かね?」
「は?」
行き成りなソレに、更に怪訝な顔
友人らは色々と言葉を取り繕いながら
「な、気分転換に行こうぜ。小鴨ちゃんも誘ってさ」
目的があからさま過ぎる
要するにそれが目的なのだろう事を指摘してやれば
皆、揃いも揃って苦笑を浮かべる
鳥谷は深く溜息を吐きながら
だが、たまには良いかもしれないと、ソレを承諾する事に
「マジ!?良いのか!?サンキュー、トリ!」
詳しいことは後でメールする、と話した処で丁度教授が入ってきた
始まった授業を眠気に堪えながら受け
漸くすべての授業が19:30
アパートに帰ってみればその前に、コガモが立って居た
「お帰りなさい、鳥谷君」
どうやら出迎えてくれたらしく駆け寄ってくる小鴨
見て分かる程嬉しそうな顔をされてしまえば鳥谷としても嬉しいもので
つい笑みが浮かぶ
「悪い。腹減ったろ」
「だ、大丈夫です。私、子供じゃないですから」
と言ってみたと同時だった
小鴨の腹の虫が、今まさに空腹だと言う事を訴えてきたのは
誤魔化し切れないその音に、小鴨は顔を朱に染め俯いてしまう
腹の虫程度、どんなに恥ずかしがることはないのに
鳥谷は僅かに肩を揺らしながら
「俺も腹減った。メシ、食うか」
取り敢えずは腹ごしらえが先だと、小鴨の頭をなでてやりながら
鳥谷は小鴨の手を取ると自宅へと入っていったのだった……

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