《MUMEI》

 「一体どういう事なの!?」
家中に、癇癪めいた大声が鳴り響いていた
その怒鳴る様な声を自室で聞いていた田所 夏生は
一体何事かと部屋を出、その声の元凶が居るだろう居間へ
覗き込んでみればソコには
怒鳴り散らしている妹と、その横には見知らぬ男
ふと、その男と目が合う
「あ、兄さん。ちょっと聞いて!」
田所に気付いた妹が凄む様に迫り寄ってくる
今一把握できないで居る現状
取り敢えずは説明を求めてみれば
祖父の代からの取り決めになっていたらしい縁談話だったらしく
だが妹は自分には関係ない、と今ソレを突っぱねている処だったらしい
「兄さんからも何か言ってよ!こんなの勝手すぎるわ!」
喚き散らす妹
言い分は解らないでもないが客の手前、これ以上はと止めに入る
「……今日は、ここまでにしましょうか」
そのタイミングを見計らったかの様に声を上げたのは妹の横に座っていた男
気付かれない程度に溜息を吐くと立ち上がり、そして踵を返す
「……話が出来る状況ではないしな」
低く呟くと、男はそのまま今尾後に
出る瞬間、田所の方を見、何故かその脚を止めた
「……何か?」
まじまじと眺められ、田所はつい怪訝な表情を向けながら問う
男は直ぐに視線を逸らすと、失礼と短く一言でその場を辞していた
結局、状況は何一つ呑み込めないままだ
「……こんな結婚話、あり得ない。父さん、私は絶対に嫌だからね!!」
静けさばかりがあった其処に妹の怒号が響き
吐き捨てる様に更に怒鳴り散らすと自室へと戻っていった
「夏生、お前からもあの子に言ってやってくれ」
行き成り話を振られる
確かにこのままあおの状態の妹を放置するのは余り得策ではないと思いはするのだが
何と声を掛けていいやら悩みながら戸を叩こうとした
次の瞬間
その戸が勢いよくい開き、田所は顔面を打ち付けてしまう
「痛ぇ……。お前、行き成り――」
開けるなと言いかけて
田所はなぜか巨大な荷を担いでいる妹の姿に気付く
何処かに行くのかを問うてみれば
「私、家出ていくから」
突然の家出宣言
いくらなんでもそれは極端すぎるのでは、と止めてはみるが
「訳の解んない結婚させられる位なら、路頭に迷った方がマシ!」
気が高ぶっているせいか耳を貸そうともしない
結局引きとめる甲斐もなく、妹はそのまま家を飛び出してしまった
追いかけた方がいいのだろうか
放っておいてやった方が妹のためではないだろうかと思いながら
一応は追いかけてみる事に
「夏生、どうかしたのか?」
身支度も適当に外へと出かける田所へ
両親が何事かと顔を覗かせてくる
事の経緯を説明してやれば、両親は唯々溜め息を吐くばかりだ
「……探しに、行ってくる」
他に言うべきことはないのだろうかと半ば呆れ
田所は素早く踵を返すと外へと出かけていった
よもや早まったこと名どしていないだろうか、と
取り敢えずは携帯へと掛けてみる事に
電源は、切られていた
だがさっきの今でそう遠くには行ってはいないだろうと
妹の行きそうな場所を手当たり次第探して回るが中々見つからない
「あの馬鹿……」
焦りに段々と苛立ちが募っていく
このまま闇雲に探し回っても埒があかない
一度家に戻ってみようと身を翻してみれば
その先に、つい先ほど自宅に来ていたあの男の姿があった
向こうも田所に気付いた様で
何か用でもあるのか、ゆるり歩み寄ってくる
「……あの喧しい女なら、さっきバスに乗り込んでいくのを見たが?」
妹を探しているのだと、相手はどうやら察したらしく
その所在を態々教えてくる
「放っておけ。あんな喧しい娘」
追いかけようとした田所の肩を掴み、言い放った言の葉
その言葉は否定しきれない、それでも
「最低だな。お前」
仮にも嫁にと申し出た女が居なくなったのだ
多少なりとも心配する素振りを見せればいいものを
相手からはそれが欠片も感じられない
つい睨み付けてしまえば、相手の口元が更に歪に弧を描き
「俺は別に、お前でも構わないからな」
「は?」
何を言い出すのだろう、と更に怪訝な顔を浮かべた直後
腹部に鈍い衝撃を感じる
瞬間止まる呼吸、そして薄れていく意識
その意識を何とか保ちながら相手を更に睨み付ければ

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